#03「空き家のまま放置」のコワイ話
みなさん、こんにちは。
前回のコラムでは、「実家が持ち家である」それだけのことで、空き家オーナーになってしまう可能性があるとお話ししました。
でも、「空き家を持つ」ことの何が問題なのかについて、ピンと来ていない人が多いのではないでしょうか。
「借り手がいないので家賃収入がない」「固定資産税を払う必要がある」といったデメリットはイメージしやすいと思いますが、空き家をそのまま放置することには、あなたの一生を不幸にしかねない問題に巻き込まれる可能性が潜んでいるのです。
今回は、「空き家のまま放置」することのリスクを、法的な観点から説いていきたいと思います。
リスク① 空き家が老朽化して倒壊したら?
建物は、使わずに放っておけば、少しずつ老朽化していきます。それが進めば、いずれは屋根が剥がれ、塀が倒れ、さらには家自体が倒壊してしまうこともあり得るでしょう。空き家が崩れた際に、隣の敷地の人や通行人に怪我をさせてしまったり、周囲の建物を損傷してしまった場合はどうなるのでしょう?
空き家の持ち主に管理上の落ち度があったとしたら、損害賠償責任を負うのは当然ですが、こうした事故が起きた場合、持ち主に管理上の落ち度がなくても「工作物責任」という損害賠償責任を負う可能性が高いです。
「工作物責任」とは、その工作物(ここでは空き家のこと)の持ち主に対して求められるもので、持ち主に管理上の過失がなくても負わなくてはならない損害賠償責任なのです。
誰かに怪我をさせてしまったり、その方が亡くなってしまったりした場合は、さらなる賠償が求められます。例えば空き家の屋根が崩れて通行人の頭に当たり、その通行人の方が亡くなってしまったという場合には、ケースにもよりますが、想定される「慰謝料」は2000万円以上。被害に遭われた方が働き盛りの年頃であった場合には、将来得られたであろう利益や収入にあたる「逸失利益」をさらに数千万円、遺族の方にお支払いしなければならないといった事態になることも考えられます。
このように、空き家が老朽化して倒壊して、他人や他者の所有物に実害が及んだ場合は、大変な金額の賠償を求められる可能性があるのです。
リスク② 空き家が放火されてしまったら?
空き家のまま建物を放置していて、放火されてしまったらどうなるでしょう?
あなたの所有する空き家だけが焼け落ちて、周辺の建物にまで延焼が及ばなければ不幸中の幸いですが、残骸撤去のための費用は発生します。放っておけば、景観の悪化や燃えかすによる悪臭について近隣からクレームが入ることも考えられ、損害賠償を請求されることもあり得ます。
では、周辺の建物に延焼してしまった場合はどうなるかというと、「失火責任法」という法律があり、「重大な過失がない」延焼の場合、「賠償責任を負わない」とされています。しかし、ゴミの放置など、空き家の持ち主が延焼の原因をつくっていた場合には、「重大な過失」が認められてしまう可能性を否定できません。その場合、損害賠償額が億単位に膨れ上がることも考えられます。
放火犯が見つかれば、法律上はその放火犯に対して損害賠償請求をすることが可能ですが、放火犯がにそんな大金を支払う資力があるとは考えにくいでしょう。
リスク③ 犯行場所に使われてしまったら?
例えば、あなたの所有する空き家が殺人事件の現場となったり、監禁事件の現場になったりした場合を考えてみましょう。
それぞれの犯罪の刑事責任は言うまでもなくその犯人が負うこととなり、空き家の所有者は、自ら進んで空き家を提供したような場合でない限り、その犯罪の共犯として処罰されることはないでしょう。
しかし、その空き家が「犯行現場になった」という事実は、一般的な感覚では好ましくないものです。ですから、その家を売却したり、賃貸したりするときには、「その家が犯行現場として使われた」という事実は、契約に先立って買主や借主に説明しておくべき内容だと思います。
こうした、いわゆる「事故物件」の告知義務については、法律で定められているものではなく、明確なルールがないのが実情です。しかし、行われた犯罪の内容、犯罪発生から経過した時間の長さによっては、「心理的瑕疵」といって、犯罪に使用された事実を告知せずに売却したり賃貸したことの責任を問われる場合があります。告知したかといって、そうした過去も承知の上で、その家を買ったり借りたりする人は稀でしょう。
つまり、犯行現場に使われてしまったりしたら、その建物だけでなくその敷地も含めて、活用することも手放すことも非常に難しくなるのです。
リスク④ 勝手に売られてしまったら!?
自分が持っている空き家を、他人に勝手に売却される。そんなことあり得るの!?と驚かれるかもしれませんが、実際にそんな犯罪が起きているのです。
最近の新聞報道で「暗躍する地面師」という見出しのニュースがありました。「地面師」というのは、他人の不動産を利用して詐欺を行う犯罪者のこと。先のニュースによれば、ある土地を所有する70代の女性とその息子と称する2人が、不動産会社に「土地を売却したい」と話を持ちかけたケースが紹介されていました。この3人の「客」は税関連の証明書も運転免許証も持っていたため、不動産会社はこの「客」を信用し、一億数千万円でその「土地」を購入。しかしその後、提示された書類はすべて偽造だったことがわかり、詐欺被害が発覚した、というものでした。
詐欺師に支払った購入代金を土地の本当の持ち主に請求するわけにはいきませんし、この不動産会社のもとへはまだ購入代金は戻っていないということです。
もし、所有している不動産がこうした犯罪に利用されてしまったら持ち主はどうなるのかというと、「実はその詐欺に加担していた」ということではないかぎり、本来の所有者が詐欺の共犯として処罰されることはないでしょう。また、不動産の権利証や実印を利用されたのでなければ、その不動産の所有権が誰かに渡ってしまうこともありません。ただ、本物の権利証や実印が使われてしまっていたら大変ですので、権利証や実印の管理はきっちり行いましょう。
この事件では土地が対象でしたが、最近は、高齢者が所有する空き家がターゲットにされているようです。特に、所有者自身は遠方に暮らし、建物の維持管理に訪れることも少ないようなケースでは、第三者に勝手に不動産取引を行われていたとしても、非常に気がつきにくいのではないでしょうか。
実際に人が住んでいる家よりも、空き家のほうが詐欺の材料にしやすいのは事実。こんなふうに、空き家の放置は犯罪の温床を生み出すことにつながっているのです。
その家が空き家でなく、賃貸するなどして活用できているなら問題はありません。でも、空き家のままだとしたら、それは、見えないリスクを抱えたデメリットだらけの存在なのです。そんな空き家を目的もなく放置し、漫然と固定資産税を払い続け、もしも「よくない何か」が起こったら? 心配ごとを先延ばしにするのは、あまり良くないと思いませんか。
空き家放置のリスクについてはまだまだ書き足りませんが、きりがないのでこのあたりにして、次回は「空き家オーナーにならないため」の対処法について。「実家が持ち家」の空き家オーナー予備軍の方々へ、備えておきたい知恵と今すぐできる行動をお教えします。
大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)
青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。
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