長嶋修の「空き家大国ニッポンを斬る!」

長嶋修(さくら事務所 会長)

2016.08.08

#01「持ち家信仰」と「新築文化」の虚構

「日本人には持ち家信仰がある」とはよく言われますが、そんなのはほとんど嘘っぱちです。日本人の、とりわけ都市部の持ち家志向というのはせいぜい戦後の高度成長期に形作られたものに過ぎず、戦前の東京の持ち家率は10%台、大阪は9%程度、都市部とされたところ全体で見ても20%強だったといわれています。もっとさかのぼれば江戸の頃はそのほとんどが借家。一方で地方の持ち家率は比較的高かったようです。いずれにしても都市部における、過去から見れば特殊な文化や価値観ともいえるそれは、戦後の短期間に形成されたと考えたほうが自然だったりします。

日本は、戦争で焼け野原になったあと、奇跡的ともいえる経済復興を遂げ、一気に先進国の仲間入りを果たしました。まずは「傾斜生産方式」といって、鉄鋼・石炭などに人・モノ・カネを投入するといった政策で産業復興の糸口を見出しつつ、朝鮮戦争による経済特需を経て、1954年の鳩山内閣あたりから紆余曲折を経ながら20年ほど続く高度経済成長期に入ります。この頃は年平均10%で経済成長していたのです。まさに「モーレツ!」。今となってはちょっと考えられないですよね。

このプロセスの中で、地方から都市に出てくる労働力は「金の卵」と呼ばれ引っ張りだこに。やがて、もともと都市部にいた人や地方から出てきた彼らが住宅を購入するようになる頃に創られたのが「持ち家信仰」です。当時は住宅が全く足りず、「つくれば売れる」といった状態。とりわけ東京など都市部の住宅難は深刻で、国会では「もっと住宅を増やせ!新築をつくれ!」と野党が叫んでいた時代です。

1970年代には朝日新聞が「住宅すごろく」といったワードを編み出します。「最初は小さな中古のマンション、次に中古一戸建てに移り、やがては郊外の新築一戸建て」といったストーリーです。地価がドンドン上昇し続けていたため、とにかくまずは小さな住宅を買い、その含み益を持って出世魚のように成り上がっていこうという話です。当時の地価のものすごい上昇を目の当たりにした庶民は、「早く買わないと買えなくなってしまう」といった焦燥感を持っていました。当時の住宅ローン金利は7~10%。大衆向けのマンションが本格的に登場したのもこの頃です。

また当時は、後年になるほど優良な住宅が供給されていたこともあって「新しいモノが美しい」時代でもありました。こうした文脈から「日本は新築文化だ」などとされたりしますが、これも言うまでもなく、戦後のある意味特殊な環境下で定着したかのように見えた幻想です。

住宅難を解決するための住宅供給は、「庶民が新築住宅を買うことがそのまま経済発展に寄与する」といった側面もありました。住宅がひとつ売れると、資材や設備が売れ、職人さんには給料が入り、それは生活費として使われるなどしてマネーがどんどん世の中を駆け巡ります。この経済波及効果について特に住宅は効果が高いとされていました。

やがて1985年のプラザ合意(※1)を契機として1980年代後半にバブルとその崩壊、その後失われた数十年を経て現在に至るわけですが、この間日本経済は成熟したうえ、さらに大きな社会構造変化がありました。「人口減少」「少子化」そして「高齢化」です。

最近、いわゆる「空き家問題」が社会を賑わせています。端的に説明すると、「2013年時点の日本の空き家は820万戸、空き家率は13.5%(※2)。さらにこのまま行くと2030年には空き家率30%台に上ってしまう」(以下グラフ参照)という問題。

 

2016年に発表された野村総合研究所の研究によると、2033年には空き家率の予測値は30%を超える見通しに。2018年以降、その伸び率は加速することが予測される。
〔出典:「第236回 NRI メディアフォーラム」2030年の住宅市場 ~“移動人口”の拡大が人口減下における住宅市場活性化の鍵に~ 「総住宅数、空き家数及び空き家率の予測」(2016年)〕

これは、住宅を新築させることで景気を浮揚させるという政策が、何となく惰性的に続いてしまった結果です。その政策に頼って収益を上げてきた民間企業も政策に甘え、新しいライフスタイル提案に挑まず、国も新しい社会のグランドデザインを提示することがなかったのですね。こうした「戦後日本持ち家システム」とも呼ぶべきものがいよいよ決定的破綻を迎えつつあり、それが「空き家」という具体的な形で今、私たちの目前に突き付けられているわけです。

日本の持ち家率は60%程度(※2)。高いのは、スペインが約79%〈2014年〉、イタリアが約73%〈2014年時点〉、アメリカ64.5%〈2014年時点〉。低い所で、ドイツが約52%〈2014年〉(以上、各国数値について※3)と、先進国の中で日本は真ん中あたりですが、昨今は若年層になるほど持ち率が低下しています。この理由にはもちろん終身雇用制度が崩壊し非正規雇用率が増加した、所得が低下している、晩婚化が進行しているなどの理由もありますが、以前と全く異なるのはその「マインド」です。

今の若い人にとっては、新しい物が常に美しいわけでもなく、むしろ時間が経過したものに歴史や味わいを見出す人も増えています。さらに言うと、住宅を所有するということについて、かつてのようなステイタス性を感じていなかったりするのです。

こういった嗜好変化と、社会問題となりつつある空き家問題とをうまくマッチングできないかといった取り組みが昨今、この『カリアゲJAPAN』を始め、あちこちで行われています。「持ち家信仰や新築文化は幻だ」とはいっても、いろいろと抵抗もあるんじゃないでしょうか?「ずっと賃貸でイイのか」「日本の住宅は30年しか持たないんじゃないか」「耐震性は大丈夫なのか」…などなど。今回はこのくらいにして、次回コラムではそのあたりについて紐解いていきます。

  • ※1 1985年、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本によるG5が発表した、為替レート安定化に関する合意。
  • ※2 出典:総務省統計局『平成25年住宅・土地統計調査』
  • ※3 出典:WikipediaList of countries by home ownership rate

 

長嶋修(ながしま・おさむ)

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。

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