空き家問題、第2フェーズへ

中川寛子(住まいと街の解説者)

2020.01.28

#02 地域、働き方、シェアが活用のキーワード

2015年以降、これまでの空き家問題を振り返る連載第2回目は空き家活用の変化についてまとめたい。活用例が数として増えたのはもちろんだが、大事なのはその内容、質も大きく変化しているという点。具体的には空き家を建物単体ではなく地域の中で考える、働き方や社会の変化を受けて考える、シェアして使うことを考えると、大きく分けて3点が指摘できよう。以下、具体例とともに紹介する。

空き家が地域を変える

まず、指摘したいのが空き家を活用することで地域は変わる、変わりうるという認識が定着しつつあり、空き家再生を地域という文脈の中で考える人が増えたという点。今では「そんなの、当たり前」と思う人もいるだろうが、2015年時点では空き家の存在それだけにあたふたしていた感があり、再生に関わっていた人を除けば空き家はネガティブな存在だったのである。

今もポジティブになったわけではないものの、行政の空き家活用コンテストで「空き家を地域の宝に」というフレーズが出るほどにはなった。空き家の増加と地域の衰退が同時に起こってきたことを考えると、その流れを多少なりともとどめようとするならば空き家活用と地域再生もまた軌を一にすべきと考えるのは自然だ。

そのため、日本全国で空き家を利用した地域再生プロジェクトが立ち上がっている。歴史あるまちでの古民家を利用した例だけでも兵庫県篠山市、広島県尾道市、福岡県八女市、福井県坂井市、京都府綾部市などと数多くあり、それ以外も含めて考えると枚挙に暇がないほどだ。

個人的に関心を寄せている事例がいくつかあるが、そのうちのひとつを紹介したい。神奈川県川崎市日進町の簡易宿所を改修したゲストハウス『日進月歩』である。川崎駅東口から歩いて10分ちょっとにある日進町は、昭和の日本の経済成長を支えた労働者の人たちが利用していた簡易宿所が集中している地域。かつては賑わったまちだが、近年は利用者、経営者の高齢化による利用者の減少、宿の廃業、建物の取り壊しなどが目立つようになっていた。

日進月歩_1200

アーティストが手がけた個性的な部屋が売りの『日進月歩』(神奈川県川崎市)。それ以外はさほど手を入れておらず、既存を活かしたつくり

そこに女性、若者、外国人をターゲットにした『日進月歩』が誕生したのは2018年1月。それから1年半後の2019年夏に再訪しているのだが、そのわずか1年半でまちの雰囲気は大きく変わっていた。これまでこのまちを訪れることが無かった人たちがやってくるようになり、元々この周辺に宿泊、居住していた人たちがその目を意識、寝間着姿では外を歩かなくなり、路上ではワンカップを飲まなくなり……。ゲストハウスの成功に刺激され、新たな宿泊施設が生まれ、さらには一戸建てが分譲されるようにも。

『日進月歩』を経営するNENGO HOTELSは2019年1月、2020年1月に近隣の宿泊施設の運営を受託、それぞれを働く男性向け、国内外のグループ・ファミリー客向けにリノベーションしており、このまちを訪れる人は大幅に増えた。さらに増えていけば、そうした客向けに飲食店その他新しいビジネスや雇用も生まれるはず。1軒の宿がまちを変えつつあるのである。

川崎の場合には外から入って来る人が寂れかけたまち、自信を失ったまちに元気を与え、それが周囲に伝播した。それ以外にもたとえば、2018年1月に誕生、2019年には多数のメディアに取り上げられると同時に店舗数を増やして話題になった東京都墨田区の『喫茶ランドリー』は、住宅化で増えたはずなのに外に出てこなかった住民達を引っ張り出し、まちの表情を変えた。いずれも引き金になったのはたった1軒の使われていなかった建物である。その影響の大きさを考えると、使える空き家を使わない手はないだろう。

一段上がったところにランドリースペース、下がったところに半個室と空間的にも面白い『喫茶ランドリー』(東京都墨田区)

一段上がったところにランドリースペース、下がったところに半個室と空間的にも面白い『喫茶ランドリー』(東京都墨田区)

働き方の変化が住まい、暮らしを自由に

働き方に代表される社会の変化も空き家の活用に変化をもたらした。まず、働き方でいえばどこにいても仕事ができるという環境が整備されつつあり、それによって都市中心部のオフィスに固定されていた人たちが働く場、時間を選べる状況が生まれつつある。相次ぐ災害、今後さらに深刻になると思われる人手不足その他、この流れを加速する要因が多々あることを考えると、今後も働く場、時間はより自由になっていくはず。当然、その受け皿としての働く場がオフィス街以外に必要になる。

実際、この3~4年、都心部ではシェアオフィス、コワーキングオフィスが急増しており、その動きは徐々に住宅街に、地方にと広がってもいる。空き家活用に働く場という選択肢が増えたのである。

空き家活用ではないが、個人的には2018年3月に東京都西東京市、東久留米市に広がるかつてのひばりが丘団地(現ひばりが丘パークヒルズ)に誕生したシェアオフィス、シェアキッチン、シェアショップからなる創業支援複合施設『HIBARIDO』に時代の変化を感じた。日本は高度経済成長期以降、職と住を分離することで生産性を挙げてきた。その最たるものが団地であり、そこにかつて切り離した職を中心とした施設が作られる。今後は住むだけのまち、働くだけのまちでは持続しないことが実際の形として示されたのだ。今後は住宅街の入り口など、もっと住まいに近いところに働く場が求められるようになるだろう。

1階にシェアキッチン、シェアショップ、2階にシェアオフィスを配した『HIBARIDO』(東京都西東京市)。個室とフリー席がある

1階にシェアキッチン、シェアショップ、2階にシェアオフィスを配した『HIBARIDO』(東京都西東京市)。個室とフリー席がある

そして、働く場が選べるようになれば住む場所も選べるようになる。長らく住まい選びではオフィスへの利便性が第一条件となってきたが、通勤の頻度が減る、あるいは必要が無くなれば自分の好きな場所、実現したい暮らしに合わせて住まいを、住む場を選べるようになる。さらにそれが進めば二拠点、多拠点居住なども広がるだろう。

すでに一部にはLCCの普及などにも後押しされ、アドレスホッパーなどと言われる人も出てきており、定額で住み放題を謳うサービスも『ADDress』、『Hostel Life』、『HafH』など複数登場している。人口は変わらなくても一人が複数の不動産を利用すれば空き家は減る。地方の空き家はもちろん、郊外のかつて団塊世代が取得した空き家予備軍と言われている住宅などが見直されるかもしれないのである。

空き家問題だけではない。2016年にJR武蔵野線・つくばエクスプレス南流山駅近くの空き店舗を改装して誕生したシェアサテライトオフィス『Trist』を運営する尾崎えり子さんは同施設を紹介するホームページで「Tristは『都内に仕事が集中していた時代』『通勤が普通だった時代』のビジネスモデルです」と書いている。そして、さらにその先の、東京を経由せずに地域が世界と繋がる時代には『Trist』は不要になり、多くの社会課題が解決しているとも。その明るい未来を実現したいものである。

オープン後すぐに近くに2号店を出すほど人気を呼んだシェアサテライトオフィス『Trist』(千葉県流山市)

オープン後すぐに近くに2号店を出すほど人気を呼んだシェアサテライトオフィス『Trist』(千葉県流山市)

シェアが可能性を広げた

もうひとつ、大きな社会の変化はシェアという概念、活用が急速に進んだこと。2006年以降空き家などの遊休不動産を活用して急増したシェアハウスが分かりやすい先行例だが、今では対象は住まいに留まらない。

前述の『HIBARIDO』はひとつの建物内にキッチン、ショップ、ワークスペースと複数用途の場が作られており、複数の人が使う。人によって使う時間が異なることから、建物、施設の使われていない時間を減らし、効率よく場を活用できるのである。建物を一人、一社に貸すよりも運営側のリスクは少なく、一人ずつの利用料金は抑えながらも全体として収益は大きくなる。利用する側からしても安価に起業、副業にチャレンジできる。

これまで使いにくかった大きな建物はもちろん、人に貸すことなど想定していなかった店舗の軒先や駐車場を貸す『軒先』や住戸内の使っていない押入れや部屋の隅を貸す『モノオク』、夜間や休日に使われていない駐車場を車中泊用に貸す『CarStay』など、シェアする貸し方は大きく広がっている。しかも、建物の一部を短期で貸すことは意識の改革にも繋がりうる。

都市に住んでいる人間にとっては住宅を借りる、住み替えることはごく当たり前だが、地方によっては家は代々その家族が住み続けるものであり、貸す、借りるなどという発想がない場合が少なくない。空き家になり、しかも、それを借りたいという人がいてすら、貸そうと思わないのだ。だが、お試し的に短期で貸す経験があれば、その抵抗感を多少なりとも薄められる。

空き家の複合的な活用例として思いつくものをいくつか挙げてみると、築60年ほどの空き社員寮を転用し、カフェ、古書店、バルにアトリエ、オフィス、工房などとして使われている千葉県松戸市の『せんぱく工舎』。築70年以上と推測される8軒長屋を店舗、事務所、日替わりシェフが利用しているシェアキッチン、宿泊施設に変えた大阪府大阪市の『キタの北ナガヤ』。築90年の元診療所兼住居をレンタルオフィス、コワーキングスペース、会議室、カフェとし、しばしばイベントも開催される神奈川県川崎市の『nokutica』(ノクチカ)。築120年余(築年が徐々に増えるように並べてみた)の古民家をギャラリーショップ、レストラン、イートインできる惣菜店、テラリウムの店、日替わりで使われる空間「naya」、サテライトオフィス、リラクゼーションマッサージなどに利用している埼玉県越谷市の『はかり屋』などなど。

『せんぱく工舎』(千葉県松戸市)の2階。古さはそのままにアトリエやオフィス、工房などとして使われている

『せんぱく工舎』(千葉県松戸市)の2階。古さはそのままにアトリエやオフィス、工房などとして使われている

8軒の長屋を改装した『キタの北ナガヤ』(大阪府大阪市)。2階を宿泊施設に、1階を事務所、ギャラリーその他の用途で活用

『nokutica』(神奈川県川崎市)は住宅街の入り口にオフィスニーズがあることを証明した。個室はオープン時に満室になり、空き待ちが出るほど

『nokutica』(神奈川県川崎市)は住宅街の入り口にオフィスニーズがあることを証明した。個室はオープン時に満室になり、空き待ちが出るほど

『はかり屋』(埼玉県越谷市)が生まれたことで、古い建物が残る周辺も含めた活性化案が検討され始めたという

『はかり屋』(埼玉県越谷市)が生まれたことで、古い建物が残る周辺も含めた活性化案が検討され始めたという

シェアにはここまで挙げたようにひとつのモノを多くの人で分けて使うというやり方のほか、一人ひとりが何かを持ち寄るという形があると思うが、まちという観点では後者のシェアの意義も大事。人を呼び、混ぜ合わせる効果があるからで、住宅や女性、高齢者などと対象を限定した施設が関係者以外には無意味な場所であることとは全く逆。地域の賑わいを考えて不動産を活用するのであればシェアが生む多様性はポイントだろうと思う。

大きく空き家活用の近年の3つの変化についてまとめた。細かい点ではまだまだあるが、そのあたりはいずれ。次回第3回は、『プレイヤーの拡大』について触れたい。

日進月歩:https://nsgp.jp
喫茶ランドリー:https://kissalaundry.com
HIBARIDO:https://hibarido.life
ADDress:https://address.love
Hostel Life :https://hostellife.jp
HafH:https://hafh.com
Trist:https://trist-japan.com
軒先:https://www.nokisaki.com
モノオク:https://monooq.com
CarStay :https://carstay.jp
せんぱく工舎:https://senpaku-kousya.com
キタの北ナガヤ:https://www.kitanaga.com
nokutica:http://nokutica.com
naya:https://hakari-ya.jp/naya
はかり屋:https://hakari-ya.jp

 

中川寛子(なかがわ・ひろこ)

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「解決!空き家問題」(ちくま新書)「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。All About「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド

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