空き家問題、第2フェーズへ

中川寛子(住まいと街の解説者)

2020.03.13

#03 全国で、地域で、空き家にチャンスを見る人たちが増加

2015年以降の空き家問題を振り返る当連載、最終回は空き家をチャンスと捉え、その解消に取り組む人達について取り上げたい。ここ数年、既存事業の成長鈍化を受け、新規事業や新サービス開発に力を入れる企業が増えているが、「事業は『不』の解消」とは新規事業に伴走するサービスを手掛ける㈱インキュベータの石川明氏の弁。だとすると空き家は日本の不の最たるものである。そこから新しいビジネスが生まれるのは必定とも言えるのではなかろうか。

全国区でマッチング問題に取り組む人たち

空き家問題で多くの自治体がまず作ったのは空き家バンク。だが、うまく機能する自治体は少なく、多くの自治体ではとりあえず作ってみたという状況が長く続いていた。2018年に全国版空き家・空地バンクがスタートしたことから多少は動くようになったが、やはり、空き家の所有者とそれを使いたい人のマッチングに問題があることは間違いない。

それを解消すべく登場、話題になったサービスが「家いちば」である。売りたい人が物件情報を掲載する掲示板で、2015年10月にスタート、2017年12月以降はテレビ、新聞その他のメディアにも頻出。これまで不動産会社が扱いたがらなかった残置物や瑕疵のある物件などを含め、ほとんどどんな物件も掲載可としている。そして、そんな難あり物件でも売買されていく。中にはタダでもいい、お金を出してでももらって欲しいという物件もあり、不動産に絶対の価値があるという考えの人たちには大きな衝撃を与えた存在である。

同じく売り手、借り手が直接取引する仕組みで、100均(100円、100万円のいずれか)という価格設定で話題になったのが、当サイト「カリアゲJAPAN」(運営:株式会社あきやカンパニー)とYADOKARI株式会社の共同運営で2019年7月に登場した「空き家ゲートウェイ」。100円または100万円にしたのは直接査定に行く手間をかけないため。100円均一ではあまりに安すぎると敬遠する人もいようという配慮。「100均」という分かりやすさと空き家バンクとは一線を画すポップな表現に若い世代が反応、東北地方の戸建には60組もの希望者が集まったという。

akiyagetway_1200 「空き家ゲートウェイ」は価格の分かりやすさ、ポップな表現で若い層にアピール。この辺りのセンスは残念ながら行政にはない部分

「空き家ゲートウェイ」は価格の分かりやすさ、ポップな表現で若い層にアピール。この辺りのセンスは残念ながら行政にはない部分

これらのサイトの人気ぶりから、分かることがある。ひとつは消費者はプロである不動産会社や行政よりもずっと自由に不動産を考え、使おうとしているということ。空き家や雑木林などの購入者に用途を聞くとツリーハウスを作る、焚火をする、仲間と集まる拠点にとこれまでにない使い方が挙がってくる。不動産価格が安くなり、ローンの重荷を背負わずに済むなら、活用は自由になるのである。とすれば、まだまだ不動産の使い方はあるし、あり得るはずだ。

もうひとつは両サイトのユーザーを中心に空き家を使ってみたいという人の多くが都市にいるということ。行政の空き家対策の多くは空き家バンクも含め、地元で空き家所有者を対象に行われている。それほど困っていない現在の空き家所有者説得に公費がつぎ込まれているのだが、それよりは都市にいる、空き家を使ってみたいと思う若い年代に訴えるほうが効率的ではないかと思うのだ。合わせて都市にいる、これから空き家を所有することになる世代に訴えられれば、もう少し空き家は動くはずである。

特定の地域で空き家問題に取り組む人たち

地域で地道に空き家解消に取り組む人達も全国で増えている。有名なところでは2008年から活動を続け、登録された空き家が足りないほどに借りたい人が多いと言われる広島県尾道市の「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」、2009年から本格的に活動を始め、100回を超す空き家見学会・相談会でその回数ほどもの空き家を再生してきた長野県長野市の「長野・門前暮らしのすすめ」などがあるが、ここでは2020年1月に共同通信社が地方新聞46紙とともに地域の課題解決に取り組む団体を表彰する第10回地域再生大賞を受賞した福井県美浜町のNPO法人「ふるさと福井サポートセンター(ふるさぽ)」を紹介したい。

リノベーションを中心にした空き家活用、地域再生と違い、住宅を住宅のまま住み継ぐ形が中心となっているため、ふるさぽの活動は絵になりにくい。あまり知られていないのはそのためだろう。だが、活動には学ぶべきものが多く、特にiPadを利用した空き家のデータベース作成システム「ふるさぽマップ」や空き家所有者を説得するのに有効な「空き家おねだんシミュレーション」などは他地域でも導入可能である。

「ふるさぽマップ」は位置情報、写真、調査票をすべて現場でiPadに入力、それをデータベース化することで行政の担当者が変わっても情報を分散させることなく共有できる仕組みで効率的、継続的に使える。「空き家おねだんシミュレーション」は課税証明書から売買価格、相続時の税金、解体費用など空き家所有者が知りたいお金の情報をまとめて一度に算出するもの。所有者がその気になった時にもたもたしていると「そんなに面倒なら放置しておこう」になりかねない状況を考えると役に立つツールである。それ以外にも独自に生み出したツール、ノウハウはいずれも人の気持ちの機微に寄り添ったもので、本気で問題に取り組みたいなら参考にして損はないと思う。

福井県美浜町の「ふるさぽ」。地域の人に集まる場に改装した事例もあるものの、基本は住宅から住宅。そのため、絵になりづらく、活動の独自性が伝わりにくいのが残念。もっと知られてよい活動だ

福井県美浜町の「ふるさぽ」。地域の人に集まる場に改装した事例もあるものの、基本は住宅から住宅。そのため、絵になりづらく、活動の独自性が伝わりにくいのが残念。もっと知られてよい活動だ

地域活性化の文脈がより強い人たちも

前回#02では空き家活用を地域再生の文脈で考える人が増えたと書いた。その現状がよく分かるのが各種クラウドファンディングだ。空き家を地域のためになる施設に改装するための資金集めが非常に多いのである。

そのうちでも独自性が高く、注目しているのが鎌倉市にある株式会社エンジョイワークスが展開するまちづくり参加型クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」である。最近のクラウドファンディングでは単にお金だけではなく、プロジェクトにも関与する出資方法が増えつつあるが、それが徹底されており、空き家を抱え、同じ悩みを持つ人同士の連携、協力関係などが生まれているという。

また、2017年に創設された小規模不動産特定共同事業者登録(詳細は当連載#01を参照)も含め、空き家活用をビジネスにしたい人向けに空き家再生プロデューサーという講座も開催している。特徴的なのはこれまでのリノベーションやまちづくりで不足しがちだった金融の知識がきちんと取り上げられていること。これにより、事業として継続できる空き家活用ができる人が増えることに期待したい。

飲食業、宿泊業等での活用も多数

以前から飲食業、宿泊業などと空き家の親和性の高さは指摘されてきた。改装費を稼げる業種と言ってもよい。たとえば、バリューマネジメント株式会社は歴史的建造物を活用して飲食、宴会、宿泊などに活用しており、そのうちには国指定登録有形文化財、重要伝統的建造物群保存地区の建造物なども多数含まれている。飲食を中心にスタートした際コーポレーション株式会社の店舗にも京都や金沢などの古民家を利用したレストラン、ホテルなども多く含まれている。その他、挙げだすと大小さまざまな事業者があってきりがないほどで、場の力をもっとも認識しているのはこの業界の人たちかもしれない。前回ご紹介したように多拠点、二拠点居住に資するような貸し方で空き家を活用する人たちも増えている。

ただ、一部には社長の趣味(!)として古民家改修を手がけていると聞く例もある。代替わりで腰が引けて取壊しなどとならないようにしていただきたいところだ。

際コーポレーションが手がけた京都市の「膳處漢ぽっちり」。昭和10年に建設された元呉服店を利用したもので208坪(約686㎡)もの広さがあり、中庭も

際コーポレーションが手がけた京都市の「膳處漢ぽっちり」。昭和10年に建設された元呉服店を利用したもので208坪(約686㎡)もの広さがあり、中庭も

個人の事業として取り組む人たちも

主に個人の資産形成の一環として空き家に取り組む人達も増えている。家庭の支出のうちでもっとも大きな割合を占めるのが住居費であることを考えると、空き家利用で住居費を減らせれば収入は増えなくても豊かな暮らしは可能。会社や行政に期待できない今、自分の手で自分たちの暮らしを良くしようという試みはもっと広まっても良いと思う。何人か、ご紹介しよう。

兵庫県神戸市の西村周治氏は空き家を見ると何とかしたいと血が騒ぐそうで、次から次に購入しては改修、貸し出したり、自分で住んだり、時には売却したり。現在のところ、本業は不動産会社勤務で作業は週に3日ほど。それでもすでに10戸を改修、購入したものの手を付けられていないものが2戸などとなっており、家賃収入は月額80万円ほど。もっとも、この数年急ピッチで購入し続けてきたため、ローン返済、人件費、材料費を考えると赤字。それでもローンはそのうち終わる。そうなれば必要以上に働かずとも好きなことができるようになる。空き家が自分らしい暮らしを実現させてくれるのである。

西村周治氏。取材時、西村氏が手がけていたのは神戸の中心部から電車でわずか10分ほどの場所に建つ木造平屋。元々は昭和30年代に市が分譲したもので、100万円で購入したという

西村周治氏。取材時、西村氏が手がけていたのは神戸の中心部から電車でわずか10分ほどの場所に建つ木造平屋。元々は昭和30年代に市が分譲したもので、100万円で購入したという

千葉県に2011年に空き家を買って大家になったことをきっかけに人生が変わったご夫婦がいる。通信会社の営業マンだった菊池聖雄氏、看護師だった菊池あかり氏だ。不動産価格の高すぎる首都圏の他都県と違い、千葉県では空き家価格は安く、一方でそれなりの賃貸住宅ニーズがあるため、改修して貸すことで収益が出る。

そこで空き家再生に特化、すでに50軒ほどを改修、一部を除き、賃貸として貸しているという。自宅も2軒の隣り合う空き家をフルリフォームしたもので、かかった費用はしめて1000万円。ローンが少ない分、教育費にお金がかけられますとあかり氏。

さらに2人は今、自分たちの経験を活かして空き家再生士なる資格を作ろうと奔走している。彼らのように空き家を自分事として解決、地域と自分の暮らしを良くするために役立つ資格を目指しており、2020年12月にはスタート予定。この数年で空き家関連の資格は雨後の筍のごとく多数立ちあがっているが、多くは座学のみ。実際に役立つ資格で、しかも自分の生活を変えられる資格とあれば期待は大きい。

菊池さん夫妻。安全な住まいを安価に提供しようと自分たちで手を動かしており、他の空き家資格とは一線を画したものができそうだ

菊池さん夫妻。安全な住まいを安価に提供しようと自分たちで手を動かしており、他の空き家資格とは一線を画したものができそうだ

最後に私の友人の話をしよう。彼が住替えにあたり、「誰か、使っていない空き家を貸してくれないかな」と呟いたところ、「あるよ」と応じる人があり、それが一軒家。各階に3室ある一人暮らしには大きすぎる家で、しかもゴミ屋敷。躊躇していたところに私ともう一人の友人と飲む機会があり、私たちは彼にけしかけた。「空いている場所は他の人に使ってもらえばいいじゃない」。

それでピンと来た彼はゴミ屋敷を友人ボランティア総動員で見事に片付け、所有者が損をしない程度の家賃で借り、1階の2部屋は現在学童保育として使われている。それ以外は全国各地の食材のプロモーションをする彼の仕事絡みで上京する人たちの無料宿泊所や食材を楽しむ場となっており、一人暮らしながら一軒家はフル活用状態。毎日が楽しそうである。けしかけた張本人ながら、不動産の使い方は発想次第と思う。しかも、彼は建築や不動産には全く無縁の会社員。誰にでも使う気になれば空き家は使えるのである。

最初に訪れた時は家具や荷物で足の踏み場もないほどだったが、現在はきれいに片づけられ、日々、多くの友人たちが集まる。写真左で撮影しているのが友人

最初に訪れた時は家具や荷物で足の踏み場もないほどだったが、現在はきれいに片づけられ、日々、多くの友人たちが集まる。写真左で撮影しているのが友人

家いちば:https://www.ieichiba.com
空き家ゲートウェイ:https://akiya-gateway.com
尾道空き家再生プロジェクト:http://www.onomichisaisei.com
長野・門前くらしのすすめ:http://monzen-nagano.net
NPO法人ふるさと福井サポートセンター(ふるさぽ):http://furusato-fukui.com
ハロー!RENOVATION:https://hello-renovation.jp
バリューマネジメント:https://www.vmc.co.jp
際コーポレーション:https://kiwa-group.co.jp
膳處漢ぽっちり 京都:https://kiwa-group.co.jp/zezekan
菊池あかり氏のブログ:https://ameblo.jp/akatin-nurse-ohya

 

中川寛子(なかがわ・ひろこ)

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「解決!空き家問題」(ちくま新書)「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。All About「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド

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