空き家だった実家を設計事務所兼そば屋に
変化を受け入れる『場所』づくり

石川県小松市
『場所』
SWAY DESIGN(カリアゲ金沢)

2018.04.16
空き家になっていた昭和57年築の木造2階建ての住宅を再生した『場所』。外観は、玄関まわり以外そのままです。

空き家になっていた昭和57年築の木造2階建ての住宅を再生した『場所』。外観は、玄関まわり以外そのままです。

工業の街として知られる石川県小松市。小松駅近くの旧北国街道沿いには江戸時代からの古い町並みが残りますが、駅から少し離れると、広がるのは田畑の残る住宅地。そんな、何の変哲もない住宅街に建つ一軒の住宅。トタンの外壁に瓦屋根、ブロック塀という、普通の「昭和の家」ですが、よくよく見ると玄関のまわりだけ様子が異なります。左官仕事が施された四角い箱の中は、飛び石と砂利が敷かれたアプローチ。まるで料亭の店構えのようです。

空き家活用事例づくりの好サンプルは「実家」だった

この不思議な場所の名前は『場所』。設計事務所SWAY DESIGNのフロントデスク兼リノベーションのショールームであり、そば屋『みちこのそばと甘味処』でもあります。この家は、SWAY DESIGNを主宰する須藤菜緒さんが生まれ育った「実家」でした。

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『場所』の中身は、設計事務所のフロントデスク兼ショールーム兼そば屋。外のような中のような不思議なつくりの空間です。

私の父が昭和52年に建てた家でした。当時は3世代で暮らしていましたが、祖父母が亡くなり、兄二人に続いて私も進学を機に家を出て、さらに、母方の祖母の介護のために父と母が祖母宅に住み込むことになり、この家には誰もいなくなってしまったんです。そのまま4年間、空き家になっていました。(須藤さん)

かつて家族と暮らしていた実家を現在のような形で使うに至ったわけは、須藤さんがSWAY DESIGNを設立する前に遡ります。愛知県の大学を卒業後、上京して内装設計や施工関連の企業で働いていた須藤さん。そこで、オフィスビルや倉庫などをシェアハウスやホテルに用途変更して活用する事業に関わるようになり、「使い道がないように思える不動産も、考え方ひとつで変えられるんだ」と気づきます。

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SWAY DESIGNの須藤菜緒さん。企画コンサルも含む提案をする設計事務所として、リノベーションも新築も手がけています。

不動産屋は、素材としてさまざまな物件を買ってきますが、それをどうデザインすればよりお客様が喜ぶ物件になるのかはわからないんです。ただ空間の設計をするだけではなく、場の使い方や使われ方も、そしてお金のことも、トータルにデザインされた提案が、不動産の活用に求められていることに気がつきました。

石川県は新築志向が多くビルダーも多数いますが、空き家や古い家がどんどん増え、リノベーションのニーズも生まれ始めています。でも、そうした物件について普通の不動産屋に相談にしても、大体は売るか買うかの話にしかなりません。不動産活用の企画コンサルから設計までを手がける設計事務所として活動することは、そうした相談に応えるだけでなく、潜在ニーズの掘り起こしにもつながるのではと思いました。(須藤さん)

リノベーション着手時の1階の様子。床の間に押入れに鶯色の壁という、いかにも昭和な空間でした。

リノベーション着手時の1階の様子。床の間に押入れに鶯色の壁という、いかにも昭和な空間でした。

そうして2014年、SWAY DESIGNを設立した須藤さん。企画コンサルができる設計事務所として地元不動産屋とネットワークをつくろうと営業に出向くも、当時、理解を示してくれる不動産屋はほぼいなかったと言います。「実物がないから、わからないんだな」と思った須藤さんの頭に浮かんだのが、4年間空き家のまま放置されていた実家でした。

普通の住宅地にある、普通の昭和の家。リノベーション事例としても、空き家の活用事例としても、最適なサンプルだと思いました。当時、兄二人はすでに自分たちの家を建てていて、この家に興味を持っていませんでしたし、リノベーション費用を金融機関から借り入れする必要もあったので、父から生前贈与してもらって私名義にしました。(須藤さん)

床の間のあった部屋は改装後、「場所の余白」と名付けられたフリースペースに。天井を解体し、梁や柱を露出させています。

床の間のあった部屋は改装後、「場所の余白」と名付けられたフリースペースに。天井を解体し、梁や柱を露出させています。

「家」という用途から解き放ち、人が集う「場所」に

須藤さんはまず、実家を活用するにあたっての投資費用とその回収期間を検討。事務所を借りた場合の賃料を月々の返済額の目安とし、先20年活用する想定でリノベーション費用の予算を立てました。次は回収方法。設計の仕事は収益が案件ごとに発生するため、一定ではありません。また、事務所のフロントデスク兼ショールームとするだけでは、集客も難しい。この場所自体が一定の収益を得られる場所にするために、須藤さんが考えたのは飲食店の運営でした。

そこで手を挙げたのが、須藤さんの母であるみちこさん。ちょうど、夫婦で長年切り盛りしてきたそば屋を息子さんに任せることになり、お店を引退したタイミングでした。

『みちこのそばと甘味処』を切り盛りするのは、須藤さんの母であり、かつてこの家に暮らしていたみちこさん。

『みちこのそばと甘味処』を切り盛りするのは、須藤さんの母であり、かつてこの家に暮らしていたみちこさん。

結婚してからそれまで40年近く、月に1日しか休まずやってきたので、これを機にひと段落しようと思ったんです。でも、毎日人に会う生活をしてきて、いきなり誰にも会わない生活になるのも嫌で。前の店では厨房に入りっぱなしだったから、もっとお客様の顔が見える働き方がしてみたかったこともあって、じゃあ私やるわって。(みちこさん)

そうして、設計事務所のフロントデスク兼リノベーションのショールーム兼そば屋という、不思議な組み合わせの『場所』が生まれます。いざ始めてみると、飲食店としては辺鄙な場所ながら、そば屋時代のお客さんやご近所さん、地元の情報誌でお店を知った人など、コンスタントにお客さんが訪れ、今では週6営業という盛況っぷり。現場や打合せに出かけることの多い須藤さんの不在時もお店が営業しているので、ショールームとして開けておくことができます。

ブビンガ材で制作したカウンターの一角には、炉と茶釜が。吹き抜けは2階にある須藤さんのデスクへつながっています。

ブビンガ材で制作したカウンターの一角には、炉と茶釜が。吹き抜けは2階にある須藤さんのデスクへつながっています。

結果的に、両親が第二の人生を送る場としても、実家だったこの場所はちょうど良かったと思います。もしも新たに場所を借りていちからやるとしたら大変ですが、ここはもともと自分たちの家ですし、店を辞めることになっても何とかなると思いやすい。一緒に暮らしていた頃は忙しくてあまり話せる機会がなかった両親と、今はたくさん話せるようになったことも、実家を活用したメリットかもしれません。(須藤さん)

お店の運営はSWAY DESIGNの事業として行っており、収益形態が違う事業を行うことは、経営の安定にもつながっていると須藤さんは話します。現在は、夜には須藤さんの父である久二さんも店に立ち、『久二とみちこと、季節のおかず』として1日1組の予約制で営業しています。「家」という用途から解き放ち、用途も振る舞いも固定されない場にすることで、この家は再び人が集う場所になったのです。

飛び石やくぐり戸など、茶の湯文化が根付く地域らしい遊び心が随所に。奥の窓は、壁だったところを抜いて新設しました。

飛び石やくぐり戸など、茶の湯文化が根付く地域らしい遊び心が随所に。奥の窓は、壁だったところを抜いて新設しました。

家族の形は時間とともに変わっていきます。部屋数がたくさんある大きな家をつくっても、変化に対応できなければ使われなくなってしまう。でも、売るにしても、売れるかどうかわからない家に片付けの手間や解体費用をかけたくもないし、だったら固定資産税を払うほうが楽という考えに行き着いて、結果、空き家のまま放置されてしまうんです。

実際はそうなのに、空き家だと自覚していないケースも多くあります。うちもそうで、家財道具や仏壇がそのままだったり、家を離れなかった飼い猫に母が毎日餌やりに通っていたこともあって、父も母も空き家だと思っていなかったんですよね。こうした問題はうちだけのことではなくて、ここに訪れるお客様が口々に話題にすることでもあります。(須藤さん)

リノベーションのビフォーアフターを見せる場

お客様の口からそうした話が出る理由は、この『場所』のリノベーションに施された工夫にあります。外観を始め、柱、梁、サッシなど、「もとは普通の民家」ということがわかるよう、随所にその要素を見せているのです。とはいえ、巣食っていたシロアリは駆除し、壁の増量と筋交いで構造を補強。床壁天井の断熱も入れ直し、先20年使うための性能も確保しています。

柱やサッシ、建具は既存。壁は彩色和紙仕上げ。「リノベーション」がどんなものか見てわかる仕掛けが施されています。

柱やサッシ、建具は既存。壁は彩色和紙仕上げ。「リノベーション」がどんなものか見てわかる仕掛けが施されています。

すべてをキレイに新しくしてしまうと、「元が良かったんでしょう」と思われたり、そもそもリノベーションだと気が付いてもらえない可能性もあります。なので、もともとの古い家の要素を残して、ビフォーとアフターが同時に見れるようにしました。

そば屋に来たお客様がリノベーションの相談に発展することもあるし、設計事務所に相談してみたいけど敷居が高いと感じている方が、まずはそば屋に行ってみようと来てくれたり。家のことを相談したいけど、誰に何から話せばいいのかわからないという人は多いと思うんですが、そういう方たちが気軽に相談に訪れてくれたらと思います。(須藤さん)

特に、古くなった家の処遇については、家族のデリケートな問題や近隣からの目線が気になるといった理由で、表立って相談できる機会や場所が乏しいもの。『場所』は、当事者である須藤さん家族が使っていることも、そうした話がしやすい雰囲気をつくっているようです。

須藤さんのデスクスペースがある2階。こちらの空間にも、さまざまな建材を実験的に取り入れています。

須藤さんのデスクスペースがある2階。こちらの空間にも、さまざまな建材を実験的に取り入れています。

さまざまな家族や生き方を受け止める「家」の使い方

順調に運用されている『場所』ですが、須藤さんは将来的に事務所を他に移したり、ご両親の状況に応じて店を貸し出す可能性も考慮しながら、活用プランを練ったと言います。一方、最近介護を終えたご両親は居をここに戻すことを検討中で、未改修の部屋をリノベーションする計画も進めているのだそう。

唐紙と和紙で仕上げられたお手洗い。シャワー室も設置しており、居住にも応えるリノベーションが施されています。

唐紙と和紙で仕上げられたお手洗い。シャワー室も設置しており、居住にも応えるリノベーションが施されています。

家が古くなったから住み替えたいと親が思っても、子どもはすでに家を持っている。古い家はそう簡単には売れないし、他人に使ってもらうことも難しいエリアです。また、家族の形も生き方も多様化して、地方だからといってステレオタイプな家族のケースに当てはまるとは限らなくなってきています。

例えば、これから子育てをする子世代は広い実家をリノベーションして住んで、親世代は小さな家を建てて住むといった、家を交換して使いこなす方法など、家族間でも使い切れない家を持つよりも、自分たちで使いこなせる方法を一緒に考えられたらと思っています。どんな世代も、どんな状況の家族も、負担が少なく我慢も少なく、快適に生きられるような、そんな道を探していきたいですね。(須藤さん)

飾っているのは、実家に残っていた祖母の茶箪笥や父のスピーカー。古い要素をインテリアのスパイスとして活用。

飾っているのは、実家に残っていた祖母の茶箪笥や父のスピーカー。古い要素をインテリアのスパイスとして活用。

カリアゲ金沢を運営するカリアゲパートナーでもあるSWAY DESIGN。須藤さんは、自社によるカリアゲも積極的に行っていきたいと話します。また、須藤さんは一級建築士の他に宅地建物取引士の資格も所有しており、空き家の売買や賃貸の相談にも対応できるよう、不動産事業の開始も準備を進めています。

空き家や空き物件のご相談をいただいて提案しても、オーナーが決断できない限り、設計事務所としては何もできないジレンマがありました。不動産業も行うことで、物件調査の結果や、その物件に有効なアイデアを活用できる機会をもっと増やしたいと思ったんです。空き家をリノベーションして貸し出すといった方法や、住宅を店舗に転用する方法、空き家や空き物件を借りたい人とのマッチングなども、提案していきたいと思っています。(須藤さん)

建てる、直す、買う、売る、だけでは解決しない、空き家や不動産の問題。設計事務所兼不動産屋として、SWAY DESIGNがどのような「住まい方」や「使い方」のアイデアを提案していくのか、今後の活動が楽しみです。

須藤さんは現在32歳、みちこさんは59歳。機能も用途も曖昧な『場所』が、今後も変化する家族の未来を受け止めていきます。

須藤さんは現在32歳、みちこさんは59歳。機能も用途も曖昧な『場所』が、今後も変化する家族の未来を受け止めていきます。

石川県の空き家再生
カリアゲ金沢

『みちこのそばと甘味処』
CLOSE 火曜日/OPEN 11:30〜15:00
『久二とみちこと、季節のおかず』
CLOSE 火曜日/OPEN 19:00〜21:00 ※前日までの要予約

上記2店の所在地およびお問い合わせは以下
『場所』
石川県小松市大領町つ7-2番地
TEL 0761-58-1863

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interview_佐藤可奈子/photograph_イマデラガク(ハプト)

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