#02 空き家増と人口減で「家を持たない」時代が来る
「一生賃貸でも大丈夫だろうか?」
「いつかの資産として家を買ったほうがいいのだろうか?」
賃貸に暮らし続けることに、そうした不安を覚える方は少なくないのではないでしょうか。家賃を毎月支払っても資産にはならないことから、賃貸はよく「お金をドブに捨てるようなもの」といわれます。一方、住宅ローンを組んで住宅を買えば、金利の支払いこそあるものの、支払いが終われば住宅が自分のものになります。しかし、それをもって「だから買ったほうが得だ」とするのはあまりにも早計です。
「賃貸と持ち家、どっちが得か?」
住宅雑誌などでしばしば組まれるこうした特集。賃貸と持ち家を30年後の家賃とローン返済の総支払い額で比較するというもので、その金額は大差がないという結果に。したがって、「いつかローン返済がなくなる持ち家のほうがお得」といった結論になっています。ところが、この手のシミュレーションには“落とし穴”があるのです。
まず、こうした試算には、マンションの「管理費」や「修繕積立金」が入っていないケースがほとんど。「修繕積立金」は建物の修繕・メンテナンスを行うための積立貯金ですが、管理会社に支払う管理費は毎月消えてなくなっていきます。
一戸建てにはこうしたコストはかかりませんが、将来の建物の修繕・メンテナンスのために、その費用を積立てしておく必要があります。積立金額の目安は、1年間で建物価格の1%程度。1,500万円で建てた住宅なら年あたり15万円、月あたりでは12,500円の積立てが必要になるわけです。
さらにこうした試算には「建て替え費用」が織り込まれていません。数十年後の物価や建築費の相場は予測しにくいものですが、マンションでも戸建てでも、千万単位のお金が出ていくことは確実でしょう。「持ち家が得」とは必ずしも限らないのです。
都市部では上昇傾向にあるものの、我が国の住宅価格は全体としてみれば下向きです。そしてその傾向は、今後さらに進みます。麗澤大学・清水千弘教授らの研究によれば、日本の住宅価格は2040年には2010年から46%(!)下がるとしています(2010年比)。
とはいえ、それはあくまで全体平均としての話で、日本でのシミュレーション結果の内訳をよくよく見れば、東京を始めとする7大都市の一部や、県庁所在地など、価値が落ちにくい地点もあります。
また、これまで住宅は築25年程度で価値がゼロになるといわれてきましたが、築年数を経ても価格が落ちない、落ちにくい物件も出てきています。現に、東京都心部のマンションのうち高額価格帯のものには築30年や築40年といった物件が散見され、建物の管理状態さえしっかりしていれば、築年数が多くとも価値が下落しないというマーケットが形成されています。ニーズのあるエリアで、建物が一定のコンディションを保っていれば、価値も維持されやすいのです。
日本が高度経済成長にあった頃は、新築で購入して25年後に建物の価値がゼロになったとしても、地価は2~5倍になったので結果オーライだったのですが、今後の日本では都市部の人気エリア以外、大半のケースではとてもそんなことは望めないでしょう。
寿命の長い住宅、かつ資産性を保てるエリアで住宅を購入でき、建物のコンディションを保てた場合に初めて、持ち家が得だという結論になるのです。
価値の下落を容認できるなら、将来ニーズがあまり見込めないところで新築を買うのもありだと思いますが、そうした購買行動が日本の空き家を量産しているといった側面があることは知っておきたいものです。
こうなると、資産価値下落のリスクがなく、いざとなったらどこにでも引っ越しができるという、賃貸のメリットが浮かび上がってきます。「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなる」という心配を抱くかもしれませんが、将来はまったく気にならなくなるでしょう。日本の人口は減少を続け、2050年には高齢化率が38.8%に達するといわれています(※内閣府「平成27年版高齢社会白書(概要版)高齢化の推移と将来推計」)。大家さんはむしろ積極的に高齢者に借りていただかないと、賃貸住宅経営が成り立たなくなるのです。
以下の日本地図をご覧ください。
上の地図で青く塗られた地点は、2050年に人口が50%以上減少するところ。なかには「無居住化」(※誰も住まなくなった場所)するところもあります。黄色の地点は0以上~50%未満の減少。わずかに見える赤い地点が増加地点です。
要は、全国ほとんどの地点で人口は劇的に減少し、同時に高齢化も進むということ。人口減少と高齢化は、地域の不動産価値を下げる大きな要因となります。これだけの人口減少が起こると、いくら安くしても売れない不動産もたくさん出てくるでしょう。現在から今後30数年かけて、このトレンドが続くわけです。当連載の第1回で引用したデータでは、2018年には全国の空き家は1000万戸を越え、空き家率は16.9%。2033年には空き家2000万戸超、空き家率は30.4%になるという予測が出ています。何しろ2060年には今より3000万人以上人口が減り、2100年には3700万人という、明治時代あたりの人口規模に戻ってしまうのですから。
現在すでに空き家になっている住宅、そして今後発生するだろう日本の空き家は、一部地域を除けば、時間が経過するほどにドンドン価値が落ち、最終的にはゼロどころか、“迷惑空き家”(「空き家対策特別措置法」で「特定空き家」に指定された空き家のこと)に指定され、自治体による強制解体で100万円単位の解体費が請求され、マイナスの結果になってしまう可能性もあるのです。接道する道路が狭かったりするとさらに大変。重機を入れられずすべて手解体で作業を行うため、さらに解体費用がかかることもあります。
では、今すでに空き家を持っている場合、どうすべきか。
「利用しないなら、今すぐ売るか貸すか決めて実行に移す」のが得策です。
もちろん、いろんな理由で空き家を処分できない理由があるのは知っています。「荷物が残っている」「思い出が残っている」「相続でもめている」などなど。しかし、そうした問題も含めて早めに解決してしまったほうが経済的には得策ですし、のちのちの苦労することもありません。
次回は、空き家の「売る」「貸す」をどう判断するかについて、お話したいと思います。
長嶋修(ながしま・おさむ)
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。
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