#04 空き家の「使う価値」を見極める方法
前回の当コラムでは、不動産の価値は1にも2にも3にも「ロケーション」であり、たとえ1億円の豪邸を建てても、それが誰も住まないような立地であればその価値はゼロである、ということをお話しました。
修繕やリノベーションを行って空き家活用をするにも、立地に難があればよほどの工夫をこらさない限り借り手はいないでしょうし、利用価値も認められないでしょう。なので、まずは立地をよくよく吟味した上で、そこに可能性があれば、次に「建物を見極める」ということになります。
しかし「建物を見極める」といってもどうすればいいのか。日本では、住宅の価値は築年数で評価されるのが一般的です。そもそも日本の住宅はこれまで、新築で建てたときに最も価値が高く、10年で約半値、25年程度でゼロというのが当たり前でした。仮に土地の価値が全く減価しないとしても、4000万円で買った新築住宅が20年後には2000万円程度の価値になってしまうというわけです。
※借入額4,000万円 住宅ローン金利1.5% 期間35年の場合
「新築住宅」とは、新たに建築されてからまだ人が居住しておらず、建ってから1年未満のものを言います。つまり、新築直後の住宅だったとしても、一度でも人が住めば「中古」になるということ。中古のマーケットでは、建った直後でも建物の価値は20%程度落ち、新築時の価値が4000万円だったら3600万円程度に。仮に全額を住宅ローンで賄っていた場合、その時点で住宅ローンはほぼ丸々残っているので、いきなり400万円程度の「家計内債務超過」に。この後、たとえ地価は変わらなくても建物は築年数に比例して減価し続け、債務超過が解消されるのはおよそ築18年目からとなります。
新築直後から築18年目までのあいだに、「転勤」「リストラ」「親と同居することになった」「住みたくなくなった」など、さまざまな理由で家の売却を余儀なくされたとき、住宅ローン残高と市場価値の差額数百万に加え、売却費用約100万円を別途で捻出する必要があります。もちろん、ずっと住んでいればこうした「家計内債務超過」は起こりません。しかし現在市場で売りに出されている中古住宅のうち20%以上は築10年以内、30%以上が築15年以内。人生には意外と不測の事態が起きるようですね。
でも実は、こうした点についてはさほど心配いりません。というのも国は現在、築年数で一律に減価する現在の建物評価を根本的に改めようとしているから。これは簡単に言うと、「現実の築年数」を無視し「事実上の築年数」によって評価するというもの。こうした制度は日本以外の先進国では当たり前のように行われていますが、日本も遅ればせながら他先進国に追いつこうとしているわけです。
「現実の築年数を無視して、事実上の築年数で評価」というのは、「築年数によって建物を評価するのではなく、建物そのものの性能を評価する」ということです。この際に高く評価される要件は大きく3つ。①「耐震性」②「省エネ性」そして③「雨漏りや水漏れがないこと」です。
①の「耐震性」については、安全にも関わることですから、空き家を活用するにも必ず耐震診断と、必要があれば耐震改修はしておきましょう。どちらも自治体から補助金が出ることが多いので、活用をおすすめします。②の「省エネ性」については、賃貸に出す場合などは投資対効果の見極めも必要です。自己居住用なら補助金などを活用し、性能を上げておきたいところです。自己居住用の場合は「住宅ストック循環支援事業」で最大45万円(購入なら65万円)の補助が出ます。③「雨漏りや水漏れがないこと」については年に一度、可能なら半年に一度、建物をざっと点検することで早期の発見・対応が可能です。
この中古住宅の新たな建物評価制度については、これから全国およそ30のプロジェクトで、実証実験的な中古住宅評価の取り組みが国のサポートを受けながら回り出す予定です。
ところで「現実の築年数を無視して、事実上の築年数で評価」ということは、空き家にも大きな希望が出てきます。築年数が古く、価値ゼロとみなされていた空き家であっても、やりようによっては活用はもちろん、一定の資産性を持てる可能性が出てくるのです。
さらに、こうした動きを後押しし、不動産市場を大きく変革する可能性のある法改正が行われました。「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」の可決と成立です。不動産取引の媒介契約締結時、重要事項説明時、売買契約締結時に宅建業者は「ホームインスペクション」に関する説明が義務付けられることになったのです。
「ホームインスペクション」とは「住宅診断」のことで、住宅建築に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場と専門家の見地から、住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見極め、アドバイスを行うサービスのことです。
アメリカ、カナダ、オーストラリアをはじめ、多くの先進国で採用されている「ホームインスペクション」を行うことで、「欠陥住宅ではないか」「いつごろ、どこに、いくらくらいメンテナンスのお金がかかるのか」「あと何年くらいもつのか」といった、中古住宅の売買時に生じる購入者側の懸念を払拭できます。築古の空き家でも、売却して活用できる可能性が広がるのです。
こうした状況を受けてホームインスペクションを依頼するユーザーは目に見えて増加しているのと同時に、住宅診断市場に新規参入する事業者もどんどん増加しています。
改正後の「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」の施行は公布日(2016年6月3日)から2年以内。遅くとも2018年6月までには施行されることになります。国は中古住宅流通市場の活性化を図り、市場規模を2013年の4兆円から2025年には8兆円へと倍増させる成果指標を掲げており、この法改正はその一環といえます。
みなさんも中古住宅を買う時、空き家活用を検討する際にはホームインスペクションの活用を検討してみてください。費用は30坪程度の一戸建てで5〜7万円。3〜4時間程度かけて建物のコンディションを把握します。
私が会長を務めるさくら事務所でもホームインスペクションサービスを提供しており、現在首都圏だけで50名近くのホームインスペクターが在籍し、日々研鑽に励んでいます。またNPO日本ホームインスペクターズ協会には1000名の公認ホームインスペクターが在籍しているほか、今年は1700名以上の受験者がインスペクターになるべく試験にチャレンジしました。
最後に、ホームインスペクター(住宅診断士)を選ぶ際のチェックポイントをお伝えしておきます。
①実績はどうか
中古住宅のコンディションは、その構造や築年数、利用の仕方などに応じて、建物の状態に大きなばらつきがあります。まずは診断士の所有する資格や経験、実績を確認しましょう。これまでにどのような建物を、何件程度診断してきたのかということです。木造、2×4(ツーバイフォー)、RC(鉄筋コンクリート)造など、建物にはさまざまな工法があり、すべての工法に精通している診断士はまれです。注意したいのは、木造住宅に詳しいのは1級建築士ではなくむしろ2級建築士だということ。対応できる建築士の等級は対象となる建物の規模で規定され、一般住宅のような小規模な建物は原則として2級建築士領域。住宅には明るくないという1級建築士は珍しくないのです。
②コミュニケーション能力はどうか
どんなに高度な調査も、あなたがその中身を理解できないのでは意味がありません。何か問題が発見された場合、それはどの程度のものか、なぜ問題なのか、どう対処すればいいのかなどについて、極力専門用語を使わずにわかりやすく説明できるというのは診断士の重要なスキルのひとつ。診断後に報告書を渡されるだけでは多くの場合不十分で、現場への同行を促すような診断士が望ましいでしょう。
③診断士の「立場」はどうか
これは、診断に第三者性があるのかということです。例えば、リフォーム会社が自ら行うホームインスペクションは、その後にリフォームの仕事を取りたいといったバイアスが働きがちになる点を理解しましょう。とりわけ無料で行われるインスペクションは、なぜ無料なのかをよく考えてください。不動産会社から診断士を紹介された場合、そこに癒着はないか注意が必要です。裏で診断士から不動産会社へ紹介リベートがわたっているケースも。大切なのは、取引に利害関係のないホームインスペクターを自分で選ぶことです。
さて、次回は最終回「不動産の未来」について。実は現在、不動産市場の整備が猛烈なスピードで進んでいること、それを踏まえてこの先、空き家についてどう考えて行動するかといったことをお話します。
長嶋修(ながしま・おさむ)
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。
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