《年末年始特別企画》家族みんなで話そう!
「もし実家が空き家になったら」

田中歩(あゆみリアルティサービス)×大久保朝猛(へいわ総合法律事務所)

2018.12.25

普段は遠く離れて暮らす家族が実家に集まって、かけがえのない家族団欒のひと時を過ごす。そんな年末年始は、「もし実家が空き家になったら」について話し合う絶好のチャンス!! せっかくの休みだし、いつどうなるかわからない先のことなんて考えずにごろごろだらだらしたいよ~!とみなさんお思いになられるでしょうが、「いつどうなるかわからない」からこそ、なるべく早く話し合っておく必要があるのです。今回は当サイトで『大久保弁護士の空き家相談室』を連載中のへいわ総合法律事務所・大久保朝猛さんと、『空き家解決人・あゆみ』を連載中の不動産コンサルタント・田中歩さんが、「実家が空き家になったら」を家族で話し合うためのポイントをお伝えします!

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ー「実家が空き家になる」のは、どんなタイミング?

大久保朝猛さん(以下:大久保):居住者がお亡くなりになられたときや、居住者がケアホームなどの施設に入所なされたとき、というケースですね。弁護士のところに来られる方は特に前者のケースが多く、相続に絡んだご相談であることがほとんどです。後者の場合は居住者の方がまた家に戻ってくる可能性があり、子供や親族などの支援者がメンテナンスして維持している場合が多く、完全な空き家とは言えないのですが、いつ居住者が戻るのかが確実ではないという点では、ほぼ空き家と言っても差し支えないでしょう。

田中歩さん(以下:あゆみ):私のところには、「空き家になる前」にご相談に来られるお客様が多いのですが、現在の居住者である親が亡くなったり、ホームに入所したりして空き家になったときに、相続のことで相続人同士が揉めるのを避けたいというのが理由ですね。将来ホームに入所する際の資金をつくるために、所有者本人から空き家を売却したいというご相談がくることもあります。

ーそのまま空き家を放置していたら、どんな問題が起こる?

あゆみ:その家の所有者である被相続人が亡くなって相続が発生したときに、相続人のあいだでトラブルが起こる可能性があります。預金などの現金や有価証券と違って、不動産は簡単に分割ができません。被相続人が亡くなる前に遺言書などで空き家の処置や財産の相続について取り決めをしておけば問題はありませんが、そうでない場合、相続人間での分割協議がうまく進まないことも考えられます。

大久保:私のコラム「#03「空き家のまま放置」のコワイ話」でも書きましたが、物理的な問題も起こり得ます。老朽化して倒壊する可能性も考えられますし、倒壊によって通行人や近隣に被害を与えてしまう可能性もあります。そうした問題が起きたとき、たとえ持ち主に管理上の落ち度がなかったとしても、持ち主が損害賠償責任を負う可能性があるのです。また、愉快犯による放火や、犯罪者の拠点として使われてしまうこともあるかもしれません。2017年に起こった地面師による詐欺事件のような犯罪に狙われる可能性もあります。あの事件は、詐欺のネタに空き家が使われる恐れを端的に象徴した事件でした。また、そうした事故や事件が幸いに起きなかったとしても、そもそも不動産には固定資産税が発生します。何の活用もしていない空き家なのに、固定資産税は徴収され続けるという不利益もあります。

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「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める大久保朝猛さん。当サイトでコラム『大久保弁護士の空き家相談室』を連載中。

ー病気や痴呆症などで、「実家のその後」について親と話ができる状況でなくなってしまったらどうすればいい?

大久保:病気の程度によっては、「成年後見開始の申立て」を家庭裁判所に行い、成年後見制度を利用したほうがいいでしょう。病気が進行すると、家のことだけでなく、病院や施設への入所、印鑑登録、住民票の変更など、契約行為や公的機関での手続きに支障が出てきます。成年後見制度は認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が低下している人のために、援助してくれる人を家庭裁判所に選んでもらう制度。この成年後見制度を含む「法定後見」と呼ばれる制度では、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が成年後見人などに選任されるのが一般的です。また、「任意後見」と呼ばれている制度もあり、こちらは制度を受けたい本人が、自身の判断能力が低下する前に任意後見人になって欲しい人を自分で選び、「任意後見契約」という契約を予め結んでおくことができる制度。任意後見人には、家族はもちろん知人や法人もなることができます。

あゆみ:親が痴呆症になってホームに入るなどしたあと、その子供が空き家になった実家を貸て活用したいと思っても、名義人本人でなければそうした契約はできません。そんな状況になって、空き家のまま放置せざるを得なかった家を多く見てきました。成年後見制度による後見人がいれば、代わって手続きをすることができます。親の認知症対策としてもうひとつ、「家族信託」という方法もあります。これは、所有している不動産屋や預貯金などの財産の管理を、信頼できる家族や親族に託して、管理や処分を任せる仕組みです。家族信託は本人が元気なうちは本人が財産を管理し、本人が判断能力を失った場合は受託者が財産管理をしていきます。こちらは、法定相続に捉われずに受託者を指定することができ、資産の積極的活用や相続税対策を積極的に行うことができます。

大久保:そうした制度の利用と平行して、話し合えなくても確認できることを進めるのがいいでしょう。まずは、「相続人の確認」です。市役所で、戸籍を遡って取ってみましょう。過去の離婚歴や隠し子を認知したことを親が隠しているというケースが稀にあります。そうすると推定相続人が変わってくるので、法定相続分の割合に影響することがあります。もうひとつは「所有権の確認」です。私のコラム「#01 その空き家、弁護士がお助けします!」でも詳しく触れていますが、法務局で実家の「全部事項証明書」を取得してみましょう。これによって、実家の正確な所有者がわかります。共有名義だった場合には、誰が何割所有しているのかということもわかります。さらに、所有者である親が実家に抵当権を付けて不動産担保ローンで借り入れをしていた場合、それもこの書類でわかります。

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あゆみリアルティーサービスの田中歩さんは不動産コンサルタント。当サイトでコラム『空き家解決人・あゆみ』を連載中。

ー話しておいたほうがいいのはわかるけれど、親にも兄弟姉妹にもそういう話をしにくい…。

大久保:弁護士である私のところに相続のご相談に来る方は、当たり前ですが円満に行っていないケースばかりです。すでにトラブルになっているか、このままではそうなってしまう、そんな状態の方がご相談に来られます。例を幾つか挙げると、ひとつは推定相続人に非常に仲が悪い兄弟姉妹がいるケース。次に、推定相続人となる兄弟姉妹の誰かが亡くなっていて、その子供が推定代襲相続人となるケース。あとは、推定相続人が高齢で痴呆症になっていて、成年後見人が付いていないというケースです。そして、みなさん不動産の問題を抱えています。共通点を挙げると、「実家の所有者が高齢」「話し合いができない」または「話し合ったがまとまらない」そこに「不動産は物理的に分けられない」という要素が加わって、弁護士に相談するしかない、というマインドになる方が多いように感じます。

あゆみ:先ほど、私のところには「空き家になる前」にご相談に来られるお客様が多いとお話しましたが、現在の不動産の所有者本人がご相談に来るケースのほかに、推定相続人となる兄弟姉妹の一人が相談に来るというケースもよくあります。その場合、兄弟姉妹のあいだですでに話し合いがもたれ合意が得られていればスムーズなのですが、話し合いを行わずに独断専行で相談に来る方も。でも話を進めるには、所有者である親やほかの推定相続人の合意がなければいけないので、結局、話し合わないといけないんですよね。親に話す前にまず、兄弟姉妹で話し合っておくことのほうが重要かもしれません。

ー話し合いをしておかなかった結果、困ることって?

大久保:たくさんあります。まず、遺産分割協議がまとまりません。その結果、不動産は誰も住む人がいない場合は放置となり、空き家になります。空き家を放置しておくことの危険性は既に述べた通りです。また、遺産分割協議がまとまらなくても、相続税の申告期限は到来します。とりあえず法定相続分どおりに申告して納税して後から修正申告をする、ということもできるのですが、相続税を支払う資金がなく、相続財産がないと納税できないといった場合は厳しい展開になります。

あゆみ:相続税は相続発生から10ヶ月後に相続税の申告と納付をする必要があります。このとき遺産分割協議で揉めて遺産分割協議書を作成できていないと、「配偶者の税額の軽減」(※1)や、私のコラム「#02 相続税を安くできる?「家なき子制度」」でも説明している「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」(※2)が利用できず、安くできたかもしれない相続税が高くなってしまうということもあります。

大久保:相続人のあいだの対立が激しい場合には、遺産分割調停に移行することもあります。そういった場合、追加費用や時間もですが、精神的な負担も相当なものになるでしょう。

あゆみ:ちなみに、相続する財産の額が低い方がトラブルが起きやすい傾向にあります。相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」(※2018年12月現在)となっていて、遺産の額と相続人の数によっては相続税が発生しないわけですが、「うちは相続税が発生するほどの遺産じゃない」と思って、家が空き家になったらどうするかを考えてこなかった結果、空き家になった実家をどうするのか相続人のあいだで意見が割れたり、空き家の押し付け合いになったりして揉めてしまうのです。さほど多くない財産のために揉めて親や兄弟姉妹の仲が険悪になるよりも、事前に話し合って合意した上で譲られた財産を受け取った方が、みんなが良い方向に進めますよね。

※1 配偶者の税額の軽減:配偶者の課税価格が1億6000万円まで、または、これを超えても法定相続分までは相続税がかからないというルール。
※2 特定居住用土地等の小規模宅地の特例:一定の条件を満たす小規模宅地を承継する場合、一定の割合(5割~8割)で評価額を減額するというルール。

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実家の活用も相続も、「空き家になったら」「相続が発生したら」ではなく事前に策を立てておくのが大事だと話すお二人。

ー「実家が空き家になったら」話をうまく切り出すには?

大久保:単に仲が悪くて話が切り出しにくいという場合は、まずはその仲の悪さを修復するところからですよね。でもそういったご家庭の場合、被相続人となる立場のお父様やお母様も大変なことになりそうだとは薄々気づいていながら、「今は考えなくてもいい」と思っている場合が少なくありません。相続が発生したタイミングや実家が空き家になったときに、兄弟姉妹のあいだで揉める可能性がある場合は、予想されるトラブルを具体的に示しながら、「こんなことで困りそうだ」と相談するスタンスで親に話を持ちかけるという手が有効かもしれません。

あゆみ:兄弟姉妹がいてその仲が良好なら、まず兄弟姉妹で話し合うのがいいでしょう。そこで実家が空き家になった際の処遇について同意が取れたらそれでいいし、兄弟姉妹の中に「実家に住みたい」と思っている人と「売って現金化したい」と思っている人がいて折り合いがつかない場合は、それをそのまま親に相談すればいいのです。推定相続人である兄弟姉妹がそれぞれで勝手に実家をこうしようああしようと考えて、いざ相続が発生した時に考えの違いが露呈すると、揉めるわけです。そうなる前に、実家の状況や、親・兄弟姉妹の意向をお互いが把握して、問題を共有する。大事なのは「どうすればいいか」という解決方法を見つけることではなく、「何が困るか」という課題を明確にしておくことなんです。

大久保:話の切り出し方として、親族や近隣の方など、身近な方の空き家トラブルや相続の話を持ち出すという方法もいいかもしれませんね。

あゆみ:一人っ子の場合は、相続で揉めることは少ないでしょうが、ホームへの入所などで、相続が発生する前に実家が空き家になった場合にどうするかを考える必要があります。最近の老人ホームやケアホームの入所金は高額なので、そうした話をきっかけにして親と実家の今後について話す、という手もあります。

ー空き家になったら「売る」と「貸す」どっちがいいの?

あゆみ:相続税では、土地の相続税評価額を路線価で評価することになっています。でもこの路線価は、市場価格と一致しているわけではありません。市場価格が高い不動産だから相続税が高くなるかもと思っていても、路線価が安かったら相続税評価額も安くなって、手放さなくて済む可能性もあるし、逆に路線価が市場価格よりも高い場合は、相続前に売って現金化しておいたほうが相続税が安くなる場合もあります。また、今後のコラムでも説明する予定ですが、空き家を賃貸運営していた上で相続すると相続税が安くなるという節税方法もあります。その不動産がどんな場所にありどんな状況なのかによるので、「売れば得」「貸せば得」とは一概に言えないのです。相続のことに精通した不動産屋に行けば、売った場合の価格や相続した場合の相続税概算を税理士などを通じて調べてくれるでしょう。あゆみリアルティーサービスでは初回相談無料で、その後は調査内容に応じてコンサルフィーをいただいていますが、中にはコンサルは無料でも仲介手数料を得る目的で売却ばかりを持ちかけてくるところもあるかもしれないので、不動産の処遇については慎重に判断してください。「売る」と「貸す」、両方の選択肢を視野に入れながら、所有者と推定相続人の状況と意向などと合わせて、総合的に考えることが大事です。

大久保:弁護士に相談に来られる方の場合、経済的メリット以外の感情的な要素やロジカルではない人間的な思考が、抱えているトラブルや不動産の処遇への考えにとても大きな影響を持っています。私の事務所では、必要に応じて各分野の専門家と連携して意見やデータを揃えつつ、相談者のご希望をヒアリングしながらアドバイスしています。

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お話を伺った場所は、『カリアゲ首都圏』のカリアゲパートナー・Drawerがカリアゲで運用中のシェアハウス「マゴメロッジ」。

ー2019年、空き家や相続に絡む大きな動きはある?

大久保:何と言っても、「民法及び家事事件手続法」の改正です。2018年にその一部が約40年ぶりに大幅に改正され、2019年から順次施行が始まります。これまで「全文を自書する」とされていた遺言書に付ける目録がパソコンで作成可能になったり、無償で被相続人の療養看護などをしていた相続人以外の被相続人の親族が、一定の要件の下で相続人に対して金銭請求をすることができるようなるなど、高齢化と社会情勢の変化に対応する内容になっています。これにより相続の手続きや遺産分割の仕方はずいぶん変わるでしょう。

あゆみ:今回の改正では「配偶者の居住権保護のための方策」も盛り込まれ、2020年4月から施行されます。これは実家を遺産分割する際、残された配偶者の保護を目的にその居住権を認めるもので、不動産の権利が「所有権」と「居住権」に分割され、配偶者は居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても自宅に住み続けることができるようになります。不動産は、配偶者居住権という負担付所有権として相続税評価されることになり、遺産分割のバリエーションが増える分、先を見据えた分割を考える必要がありそうです。

大久保:今年に始まったことではありませんが、「特定空家等に対する措置」に基づいて、危険な空き家が略式代執行で解体される件数が増えてきていることも注目しています。

あゆみ:2019年10月からの消費税増税も、空き家の扱いに影響を及ぼしそうです。土地の売買や、個人と個人のあいだによる中古住宅の売買には、消費税は課税されませんが、売主が事業者である場合の建物の売買には消費税がかかりますし、リフォーム費用にも消費税はかかります。消費税が5%から8%に増税された2014年の頃は、増税後も不動産価格は上昇しましたが、これは住宅ローン金利が下がったためだと言われています。現在はこれ以上の金利低下は見込めず、つまりこれ以上の価格上昇が見込みにくいため、消費増税による支出抑制マインドが不動産価格に影響する可能性が高いでしょう。さらに、米国や中国の経済失速の影響もあり、2019年は日本の好景気が転換を迎える可能性が高く、売るに売れない不動産が増えてくるのでは、と推測しています。こうした時事ネタも、家族で「もし実家が空き家になったら」について話すきっかけとして活用してもらえたらと思います。

撮影協力:マゴメロッジ(カリアゲ事例) interview_佐藤可奈子


大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)
青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。当サイトでコラム『大久保弁護士の空き家相談室』を連載中。

田中 歩(たなか・あゆみ)
慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行(旧三菱信託銀行)に入社し、上場企業や土地持ち富裕層向け不動産売買・活用コンサルティング業務、不動産証券化およびファイナンス業務に従事。2009年、銀行時代に培った企業や土地持ち富裕層向けサービスを一般ユーザー向けに提供すべく「株式会社あゆみリアルティーサービス」を設立。同代表取締役。中古住宅流通の活性化に向け、ホームインスペクション付仲介や老朽化アパート再生事業(木賃デベロップメント)などのプロジェクトを手掛ける。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会理事としてホームインスペクション普及活動も実施。当サイトでコラム『空き家解決人・あゆみ』を連載中。

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