大久保弁護士の空き家相談室

大久保朝猛(へいわ総合法律事務所)

2016.12.22

#01 その空き家、弁護士がお助けします!

空き家と弁護士の意外な関係

みなさん、はじめまして。弁護士の大久保朝猛(おおくぼともたけ)と申します。
弁護士の仕事を始めて、2016年で10年目になります。よく「専門分野は何ですか?」と聞かれるのですが、弁護士を真面目に10年もやっていると、やったことのない分野というのはほぼなくなってきます。強いて挙げるなら、「不動産」「相続」「交通事故」が私の個人的な得意分野です。

「弁護士が空き家を助ける?」と不思議にお思いになった方もいるかもしれません。実は空き家と弁護士は、切っても切れない関係にあるのです。

その理由は、「相続」です。

カリアゲJAPANをご覧になられている方の中には、「ゆくゆくは遺産になる不動産を所有している方」または、現在は両親が住んでいる実家があるなど「いつか不動産を相続する可能性がある方」が多くおられることと思います。
実は、その不動産は「空き家になる可能性が非常に高い」のです。

「相続する不動産が空き家だったとして、何が問題なの?」とお思いになる方もいるでしょう。空き家でも「貸せばいい」「売ればいい」と思っている方もいるかもしれません。

検索サイトで「空き家」のキーワードを検索してみると、「空き家を貸すなら」「空き家の解体業者を無料で紹介」「空き家を持っていると大損する?」「実家が空き家になると、固定資産税が高くなる!?」などの見出しがずらっと並びます。

このことからわかるとおり、たとえ空き家でもそれは財産であり、資産運用の対象という認識が一般的で、空き家のことを相談する先と言えば、銀行かハウスメーカーか不動産屋か。弁護士は縁遠い存在に思えるかもしれません。

しかしながら空き家には、あらかじめ手当しておかないと“危ない”法的なリスクが多く潜んでいるのです。

その空き家、誰のもの?

ではここで、「両親が亡くなり空き家になった一戸建ての実家を相続する」というケースを例に挙げ、よくある法的なトラブルをご紹介しましょう。

  • 問題1
    お父さんが所有していると思っていたら、土地も建物もお父さんと伯父さん(父の弟)との共同名義で、半分ずつの所有だった。
  • 問題2
    土地も建物もお父さんの単独所有だったが、お父さんが家族に内緒で借金をして、土地と建物をその借金の担保にしていた。
  • 問題3
    実家の敷地内に離れを建築したが、不動産登記(※1)されていなかった。
  • 問題4
    おじいちゃんが亡くなった時、不動産の名義をお父さんに変える手続きがされておらず、土地も建物もおじいちゃんの名義のままだった。
  • 問題5
    建物はお父さんの名義だったが、土地は知らない人の名義だった。

※ 1 不動産登記…土地や建物の所在・面積のほか、所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し、これを一般公開することにより、権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑を図るもの。

上記の問題に共通しているのは、「その家は誰ものなのか?」がはっきりしていないこと。名義上ははっきりしていても、名義人が故人であったり直系親族でなかったりというふうに、複雑化している場合が多々あるのです。

みなさんは、自分が所有する・または相続するかもしれない不動産が、誰の名義でどんな内容で登記されているのか、お分かりになりますか? 自分で購入した不動産だという方以外は、はっきりわからないという方も多いのではないでしょうか。
そうした情報は「全部事項説明書」で確認することができます。

どうしようもない空き家を、活用したくなる空き家に

「全部事項説明書」とは、その不動産についての不動産登記の記録がすべて記載された書類のこと。例えばその不動産が土地であれば、「所在」「地番」「地目(土地の用途区分)」、「地積(土地面積)」といった基本情報のほか、過去から現在までの名義人(所有者)の移り変わり、土地に設定されている担保やその移り変わりなどが記されています。いわば、不動産の「履歴書」。

「全部事項説明書」は法務局という法務省に所属する機関が管理しており、最寄りの法務局や出張所で発行を申請すると手に入ります。手数料は1通あたり数百円。その不動産の所有者本人でなくても、誰でも申請できます。 

と、こうして説明してみると、自分が所有する・または相続するかもしれない不動産の登記記録を入手することは実はそう難しくないのですが、不動産や法律についてのお仕事をしている方でなければ、なかなか知り得ないことでしょう。

前述したような「その家は誰のものなのか?」問題は空き家を相続するタイミングで露見したり、上記のような問題があるがゆえに空き家になる場合もあります。

自分が所有する・または相続するかもしれない不動産を「売りたい」「貸したい」「改修したい」「壊して更地にしたい」と思っても、こうした法的な問題をその不動産が抱えていたら…? 簡単には活用できないことがイメージできるのではないでしょうか。 

逆にいえば、問題点さえしっかり手当てしておけば、その不動産は「活用のしがいがある素晴らしい財産」ということになります。相続対象となる不動産に潜む法的な問題を発見し、適切なアドバイスをくれる存在が弁護士、ということになるのです。

 弁護士・税理士・司法書士の違いって?

ちなみに、「弁護士」「税理士」「司法書士」ってどう違うの?というご質問もよくいただくのですが、簡単に説明すると、「弁護士は法律全般のエキスパート」「税理士は税務に関するエキスパート」「司法書士は不動産登記に関するエキスパート」。相続不動産の法的問題に取り組む際には、専門性が高い税理士と司法書士は、外せない存在です。さらに、「空き家を建て替える」「売る」「改修して貸す」などといった場合には、建築士や不動産会社の方々との連携も不可欠になってきます。

当コラムでは、弁護士である私の知識と経験に基づく話はもちろん、協働する立場にある隣接分野の方々の体験談や、相続する不動産が空き家になるかもしれない人との対談なども展開していきたいと考えています。

財産である不動産をどう自らの暮らしに生かすのか。当コラムを通じて、所有する不動産が空き家になった時に困らないための知恵をお届けしていきます。どうぞ宜しく!

大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)

青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。

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