#05 空き家になりやすい相続トラブル①
この家、誰のもの?
こんにちは。弁護士の大久保です。
当コラムではこれまで「空き家が生まれるきっかけは相続」とお話してきましたが、空き家につながる相続のトラブルとは、一体どんなことなのでしょう?
今回からは「空き家になりやすい相続トラブル」シリーズと題して、実際によくあるトラブルの例をご紹介。その解決策と合わせてお話していきます。
空き家になりやすい相続トラブル①実家の土地建物が誰のものかハッキリしない。
実際に弁護士に寄せられる相続についての相談で、よくあるトラブルがこちら。
例えば、将来お父さんから相続することになる実家の土地建物の活用を息子さんが検討していたら、名義人がすでに亡くなっているお祖父ちゃんのままだったことが発覚。というようなケースです。
ここで、お祖父ちゃんが遺産の相続について記した「遺言書」を残していたり、相続人の間で取り交わされた「遺産分割協議書」があれば良いのですが、それらがないと、実質的にはお父さんが実家の土地建物を相続していたとしても、書類上は「お祖父ちゃんのものにみえる」点が問題になります。
また、もうひとつの問題は「法定相続がなされたようにみえる」点。「法定相続」とは民法で規定された相続方法のことで、「相続人が配偶者と被相続人の子供1人の場合→配偶者1/2、子供1/2」というふうに、誰がどのぐらいの遺産を相続することができるかが定められています。「遺言書」や「遺産分割協議書」で「誰が何を相続した」と示されていない場合には、民法のとおりに相続がされたものとして法律上扱われるのです。
実家の土地建物を他人に売却したり貸したりしようと思っても、名義人が故人ではできません。さらに、「法定相続分ずつの相続がなされたようにもみえる」ので、「私にも相続する権利がある!」と言い出す人が出てくる可能性も…。
こうしたトラブル事例は非常に多く、名義人が一代前の人であったらまだ良いほうで、もしも何代も前の人だったら? その人の子供、孫、ひ孫…と人間関係はどんどん広がり、「私にも相続する権利があるかもしれない」と考える人が増えていく可能性があるのです。そうなると、とてもやっかいなことになりそうですよね。
《解決策》「遺産分割協議書」を作成し、
「不動産の名義人変更」を行う。
では、このトラブルをどう解決すればいいのでしょうか。
まずは「実家の土地建物は誰のものか」をハッキリさせる必要があります。
「遺言書」があればそれに従いますが、ない場合には相続人の間で「実家の土地建物は誰が相続した」という同意が取れた「遺産分割協議書」を作成し、「不動産の名義人変更」を行います。
「遺産分割協議書」とは、被相続人が亡くなった時に、相続人の間で遺産をどう分割するかを取り決めした書面のこと。法律上、必ず作成しなければならないという書類ではありませんが、相続税の申告時や、被相続人の預貯金の解約時や「不動産の名義人変更」手続時などに必要になります。また、誰が何を相続したのかについての紛争が起きることを防止することにもつながります。
「相続の手続はもう終えているのでは?」と思われるかもしれませんが、実は「相続税の申告」には「遺産分割協議書」は必ずしも必要なものではないのです。
「相続税の申告」は被相続人の死後10ヶ月以内に行うものと定められていますが、期間内に相続人の間で遺産の分割が決まらなかった場合は、法定相続分を相続したものとして、相続税が課税されるのです。つまり、「遺産分割協議書」を作成していなくても「相続税の申告」を行うことは可能なのです。
そして、「相続税の申告」と「不動産の名義人変更」はまったく別物の手続なんですね。相続税を扱うのは税務署ですが、「不動産の名義人変更」に対応するのは法務局。「相続税の申告をしたら自動的に不動産の名義人も変更」というシステムになっていたら大変便利なのですが、残念ながらそうなってはいないので、別途手続する必要があります。
さらに、「不動産の名義人変更」は「いつまでに行いなさい」という決まりがありません。家族が住み続けたりする場合には「不動産の名義人変更」をする必要も感じず、そのまま時が流れ、今回のような「実家の土地建物が誰のものかハッキリしない」といったトラブルが生まれてしまうのです。
「遺産分割協議書」には決まった様式や書式があるわけではありません。しかし、記載に不備があると「不動産の名義人変更」手続を行う際に支障を及ぼすことがあります。また、内容に誤りがあった時、それを訂正するには相続人すべての署名捺印が必要に……と、なかなか手間がかかるので、弁護士や行政書士、司法書士といった専門家へ相談することをオススメします。
「遺産分割協議書」ができたら次は「不動産の名義人変更」です。管轄の法務局へ赴き、「相続を原因とする所有権移転登記申請」の手続を行います。「不動産の名義人変更」には「遺産分割協議書」のほか、相続人の「印鑑登録証明書」などの書類も必要になります。不備があると手続ができませんので、こちらも専門家の協力を得ると安心です。
ご実家が「ご両親が生まれる前から建つ古い家」だったりした場合は要注意。「親族から譲り受けた」というケースも怪しいです。「相続はまだまだ先」と思っていても、「いざ相続」という時にトラブルにならないように、ご実家の名義人が誰であるかあらかじめ確認しておくと、将来が安心ですよ。
《ワンポイントアドバイス》相続人に連絡が取れなかったらどうすればいい?
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相続人への連絡を弁護士に依頼することができます。
家族親族の関係が密接だった昔と違い、今はそれぞれが遠く離れて暮らしていたり、集まる機会も減っていたりして、相続人と疎遠になり連絡が取れないというケースも多くあります。そんな、所在がわからず連絡がつかないという相続人について、弁護士が代わって連絡を取るという手段があります。
弁護士による「相続人捜索」には、以下のような方法があります。
- 住民票の職務上請求をして相続人の所在地を探る。
- 住所が分からない場合、戸籍の附票の職務上請求をして相続人の住所の変遷を探る。
- 相続人の携帯電話or固定電話の番号がわかれば、そこから契約者の契約時の住所を弁護士会照会という方法で突き止める。
- 弁護士が相続人にコンタクトを取り、事情の説明をする。
- 相続人に遺産分割協議書の作成に協力してもらえるよう弁護士が交渉をする。
名義人が何十年も前に亡くなった人だった場合には、相続人もすでに亡くなっていて、その配偶者や子ども、または孫に連絡を取らねばならないことも。相続人の代替わりが進むほど、連絡は取りにくくなります。
弁護士はその職権を以って、相続人を探し出し、連絡を取ることができます。「相続人と連絡が取れない」「誰が相続人にあたるのかわからない」といったときには、ぜひ弁護士に相談してみてください。
次回第6回もシリーズ「空き家になりやすい相続トラブル」をお届けします。
ご自分のご実家が当てはまるケースはないか、要チェックですよ!
大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)
青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。
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