#06 空き家になりやすい相続トラブル②
実家の名義人がたくさんいる!?
こんにちは。弁護士の大久保朝猛です。
第5回コラムからお届けしている、「空き家になりやすい相続トラブル」シリーズ。
前回は「実家の土地建物が誰のものかハッキリしない」というトラブルをご説明しましたが、似たようなトラブルで多いのがこちら。
空き家になりやすい相続トラブル②
実家の名義が複数人の共同名義だった。
共同名義とは、ひとつの物を複数人が共同で所有している状態のこと。例えば、実家の土地建物の名義が、「父」と「父の弟(叔父)」の共同名義だった。といった状況です。
上記に挙げた例の状況を、もうちょっと詳しく設定して説明していきましょう。
実家は祖父の代に建てたもので、祖父が亡くなった後に、その土地建物の所有権を父と叔父が1/2ずつ相続して、共同名義という形に。
実家には父が家族と住み続け、叔父は別に住まいを持って暮らしています。
実家の土地建物の固定資産税は、実質の使用者である父が支払ってきました。
まず、なぜ「父と叔父の共同名義」になったかについてですが、お金と違って不動産は「はい、半分こね」とは簡単にいきません。
また、相続人の誰かが住み続けるとなると、売って現金化することもできません。
ので「ひとまず」の解決案として、「共同名義」にしてしまうんですね。
こういうケース、本当に多いんです!
そして、「共同名義」の状態だとどういうことが起きるかというと、「父が亡くなったら、誰がこの家を相続して所有者になるの?」という問題です。
実質的な所有者は父、でも共同名義人である叔父も1/2所有権を持っている。
すると、父の遺産を相続する母や子供たちは、父の持つ1/2の所有権だけを相続するの? 1/2の所有権を母が相続して住み続けたとしても、将来的に母が亡くなったら、また1/2所有権を子どもたちが相続するの…? そして叔父が亡くなったら、叔父が持つ1/2の所有権は、叔父の妻や子どもが相続して…。そうすると、実家を建て替えたり売却したい時は、どうなるの???
…というふうに、実家が老朽化して建て替えるにも、誰も住まなくなって売却しようにも、
決定権が分散しているのでなかなか決定ができず、空き家になったまま放置…という展開に陥りやすいのです。
共同名義人が2人ならまだしも、3人、4人と増えていき、さらにそれぞれに配偶者や子どもがいたら、もっともっとややこしくなることは容易に想像できます。
では、このトラブルをどう解決すればいいのか。
解決策はいろいろありますが、その中でも、「父が存命中にできる」シンプルな対策を中心に、主なものを4つ挙げていきます。
《解決策1》共有名義のままにする。
これまでと同じく名義を共有にしたまま、今後実家を使用する相続人が固定資産税を支払っていくという形です。相続人が実家を使用するのであれば、ひとまずこの形でもいいかもしれません。が、共同名義人である叔父が亡くなった時は、叔父の相続人が1/2所有権を相続するわけで、その相続人が実家の土地建物を売りたい・貸したい・使いたいと言い出す可能性も。結局、同じく問題の先送りをするだけです。なので、実際のところは解決策とは言えないかもしれません。
《解決策2》叔父の所有権を買い取る。
叔父が持っている1/2所有権を買い取ってしまうという方法です。そのためには、売買代金をはじめとして、不動産取得税、登録免許税などの税金や、不動産登記を専門家に依頼する場合の手数料などの資金が必要になります。相続税に加えてこれらの支出が発生してしまいますが、名義を一人にまとめられれば、実家を売却したり賃貸するなどの活用がスムーズになります。
《解決策3》父の所有権を叔父に売る。
こちらは2の逆バージョンで、父の持つ1/2所有権を叔父に売るという方法です。叔父が買い取ったあとは、父家族は別のところに住まいを移す、という前提です。その後も実家に居住し続けたい場合は、叔父に交渉して賃貸してもらうという方法も考えられます。ただし、所有権は100%叔父のものとなるので、実家を売る・貸すは叔父の判断になります。
《解決策4》父と叔父の所有権をまとめて第三者に売る。
父の持つ1/2所有権も叔父の持つ1/2所有権も合わせて、実家の土地建物を丸ごと第三者に売るという方法です。この場合も、3と同じく実家の土地建物に居住していた父家族は別のところに住み替えするという前提です。これには、叔父の了承が必要になります。売却価格についての話し合いも要りますね。売却で得た代金は、所有権を元に考えれば父と叔父で1/2ずつ分割することになります。
以上のとおり、現実的なのは2、3、4のどれかでしょう。
2、3、4に共通するのは、「共有状態を解消する」ということです。
ここで大事なのが、「相続が発生する前に手を打つこと」。つまり、上記のケースで言うなら、名義人である「父の存命中」に行動を開始することです。
共同名義人同士が疎遠であったり、連絡がとれなくなっていたりした場合は、当コラム第5回でも紹介した弁護士経由の連絡方法もあります。疎遠な間柄だった場合、もしかしたら、共同名義人はすでに亡くなっていて…ということも可能性として考えられます。
相続する人たち同士で話をするよりも、名義人本人たち同士で話をしたほうが、解決への道のりはずっと短くなります。
第5回で挙げたトラブルと同様、今回のようなトラブルが起きやすいのは、ご実家が「ご両親が生まれる前から建つ古い家」だった場合。
ご両親に兄弟姉妹がいる場合も、一度名義を調べてみることをおすすめします。
「不動産の名義人」は、「全部事項説明書」という法務局で発行してもらえる書類で確認することができ、名義人本人でなくても確認することができます。当コラムの第1回で詳しく説明しておりますので、どうぞそちらもご一読ください。
次回も引き続き「空き家になりやすい相続トラブル」シリーズ。
「親や相続人が病気で意思疎通がとれない場合」です。
ご高齢の親御さんがいる方は、要チェックです!
大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)
青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。
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