2019年6月、秋田の南通亀の町にオープンした『ヤマキウ南倉庫』。1階は雑貨店や生花店、スーパーマーケットや美容室にネイルサロンといった10のショップに、「屋根付きの公園」をコンセプトにしたイベントスペース、ギャラリー、ライブラリーも併設。2階は設計事務所や経営コンサルティング会社などが入居するオフィスとコワーキングスペースという、“超”複合施設。1976年築の空き物件だったこの倉庫を、なぜ、どのように再生したのか。『ヤマキウ南倉庫』をプロデュースした株式会社See Visions代表の東海林諭宣さんにお話を聞きました。
空き倉庫を、賑わいを生み情報を発信する複合施設に再生
鉄骨造2階建てで、延床面積約1300㎡。数年間、空き物件となっていたこの広大な倉庫を借り上げ、“超”複合施設『ヤマキウ南倉庫』として再生したのは、株式会社See Visions。グラフィックデザインとウェブデザインを主に、出版業やイベント企画のほか、リノベーションに店舗運営も手掛けるデザイン会社であるSee Visionsは、「カリアゲ秋田」を展開するカリアゲパートナーでもあります。
この倉庫は1976年に建てられ、地元の醸造会社が提携する大手ビール工場の倉庫として利用していました。空き物件となって以降、オーナーは大手小売企業から倉庫として借りたいと言われたこともあったそうですが、もしその小売業が撤退したらまた空き物件になるし、将来に渡って地域の活性化に役立つ事業に使いたいという思いがあったそうです。
そう話すのは、株式会社See Visions代表の東海林諭宣さん。『ヤマキウ南倉庫』に入居しているのは、秋田市内で人気の雑貨店や生花店、スーパーマーケット、美容室やネイルサロンといった衣食住を横断する多様なショップと、誰でも利用できるギャラリーとライブラリーに、普段はホールとして開放されているイベントスペース、そして設計事務所や経営コンサルティング会社などのオフィスと、ショップとオフィスとパブリックが混じり合った“超”複合な内容。
ただショップに来て買い物やサービスを受けて帰るだけでは、発展性がありません。いろんな人が交流することで、シナジーが生まれる場所にしたかった。“ショップとお客さん”だけじゃなくて、入居しているショップとオフィスにつながりができて何かが発生したり、ショップへ訪れたお客さんが入居しているオフィスとつながったり、または逆のルートだったり。そういった“つながりの循環”がある場所にしたかったんです。現在、入居している各テナントは、そのコンセプトに賛同してくれた人たちです。
2階にあるコワーキングスペース「COWORKING SPACE SYNERGY」も、そんな思いから企画された場所。月単位や日単位で利用することができ、ビジネスのスタートアップや、多拠点で活動する人など、ビジネスでの利用はもちろん、資格取得のためのデスクスペースとしてなど、さまざまな人にいろいろな使い方をしてほしいと東海林さんは話します。
最近はここ秋田でも、フリーランスで働く人や自分で起業して働く人が増えてきています。『ヤマキウ南倉庫』2階には4つの設計事務所のオフィスが入っているんですが、See Visionsも含めて、僕らぐらいの会社規模だと、自治体が行う公共系の事業に参加することが難しいんです。でも、例えば僕らで組合をつくったら、そういった大きな事業も受けられるかもしれない。よそから来た大手デベロッパーではなくて、秋田に暮らす人が秋田のまちのことを考えたほうが、いい効果が生まれると思うんです。
複数の小規模事業者が集まって商売をすることで集客を増やし、それぞれがつながりを持つことで事業の幅を広げるというアイデアは、地元企業を育て、地域に活性をもたらすことにもつながります。同じように、小規模事業者がビジネスを広げるためのアイデアは、『ヤマキウ南倉庫』プロジェクトの事業スキームにもありました。
建物は、僕たちSee Visionsがオーナーから借りている形で、入居テナントからの回収賃料をオーナーに支払っています。リノベーションにかかった費用は約1億5千万円。15年で回収できる事業計画を立て、オーナーに初期費用を出してもらいました。『ヤマキウ南倉庫』は規模が大きかったこともあって回収期間が長めですが、初めてそうした事業をする場合は、規模にもよりますが5年~10年での回収を目指すとリスクが少ないのではないでしょうか。
若い企業や新しいお店の場合、意欲はあっても資金の工面が難題。銀行から借り入れをするにも、起業年数が少ない企業は難しく、自治体の補助金を使うと用途が制限されることもある、と東海林さん。今回の『ヤマキウ南倉庫』プロジェクトのように、借主が事業計画を立てて運営まで行い、オーナーが出資した初期費用を賃料で返していくスタイルを、空き物件を使って何かを始めてみたいと思っている人にはぜひ参考にしてほしいと話します。
『ヤマキウ南倉庫』は7%くらいの年利がある計画になっています。オーナーは「地域貢献につながるなら、利回りが少なくても全然いい」と仰ってくれるくらい、このプロジェクトに惚れ込んでくれました。地域貢献も目的でしたが、かつて多くの人が働き、出入りしていた頃のように、この場所が人で賑わう光景を甦らせることもオーナーの希望だったんです。
「自分が住むまちを楽しくしたい」から始まった不動産活用
そもそもグラフィックデザイン会社であったSee Visionsが、リノベーションによる不動産活用事業を行うようになったのは2013年。同じく南通亀の町にある小さな路地、狸小路の元居酒屋をリノベーションしたスペインバル『カメバル』が始まりでした。
自分たちのような若い世代が楽しめる店が、まちの中にもっとあったらいいなと思ったんです。駅前やバイパス沿いにあるのはチェーン店ばかりで、個性的で面白い個人規模のお店は、大体まちから外れた場所にある。狸小路がある南通亀の町は、駅前からも古い飲食店街からもちょっと外れた場所なんですが、ここでそんな店ができないかなと思って、知人に物件を紹介しまくったんです。が、周辺に店がないし物件も汚かったせいか、みんなに敬遠されて(笑)。じゃあ自分でやってみようと、知り合いのシェフと一緒に『カメバル』を始めたんです。
See Visionsを創業する前は、外食事業を展開する会社のデザイナーとして東京で働いていた東海林さん。独立後も新規開店する店舗のデザインディレクションに関わってきたため、店舗の企画や運営について知識があったことも後押しになったと言います。
いろんな小さいお店がたくさんあるのが、楽しいまちだと思っているんです。就職する前はバックパッカーをやっていて、海外のいろんなまちを巡りました。小さな店がたくさん集まった雑多なまちほど賑わいがあって楽しかった。東京では、住んでいた池尻大橋のまちや新宿のゴールデン街の雰囲気が好きでした。秋田もかつてはそういう場所があったのかもしれないけど、今はもうどこも閑散としているなって。自分自身が面白いと思える場所を、秋田のまちにつくりたかったんです。
そうして東海林さんは狸小路の元居酒屋だった空き店舗を借り上げ、『カメバル』をスタート。費用を抑えるためにほぼセルフリノベーションでつくった店でしたが、「南通におしゃれなスペインバルが出来たらしい」とすぐに話題となり、東海林さんは2店舗目に着手。向かいにある空き店舗を借り上げて、『サカナ・カメバール』を開店し、どちらも人気店に。続いて2015年には、『ヤマキウ南倉庫』に隣接し、同じオーナーが所有する『ヤマキウビル』1階で、直営3店舗目であるコーヒースタンド&デリ『亀の町ストア』をオープンと、南通亀の町エリアの空き物件を使って次々とお店を展開していきました。
『ヤマキウビル』も事業計画と運営をSee Visionsで行い、初期費用をオーナーに出してもらって再生しました。2階は賃貸オフィスとして運用、3階は僕たちSee Visionsのオフィスとして使っています。こちらは一棟のリノベーションにかかった初期費用が3500万円ほどで、5~6年でオーナーが回収できる賃料で借りています。
そうして、ほんの数年前までお店がほとんどない住宅地だった南通亀の町エリアは、人々が賑わうまちに変貌。See Visionsの直営店以外のショップや飲食店も増え、2013年当時は空き店舗の契約数が年間4件だったのが、2015年の時点で16件に増え、2019年6月現在では空き店舗がない状態だと言います。
『ヤマキウビル』を見つけた時、このビルを借りてもっとこのまちが面白くなる場所をつくりたいと思って、人のつてを辿ってオーナーを訪ねたんです。でも、門前払いを食らって。二回も(笑)。そんな時にカメバルで飲んでいたら、隣に座った人が当時のオーナーの息子である現オーナーだったんです。それで話をしたら興味を持ってくれて、当時のオーナーに掛け合ってくれたんです。
そうして、『ヤマキウビル』が生まれ、『ヤマキウ南倉庫』が誕生。人・もの・ことが出会い、そのつながりが何かを生み出し、相乗効果をもたらす。オーナーとの出会いのエピソードは、東海林さんが思い描くそんなまちのイメージを、まさに体現するものです。南通亀の町から、今後どんな効果が秋田のまちにもたらされていくのか、楽しみです。
『ヤマキウ南倉庫』
秋田県秋田市南通亀の町4-15
秋田の空き家再生『カリアゲ秋田』
カリアゲパートナー:株式会社See Visions
interview_佐藤可奈子
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