空き家解決人・あゆみ

田中歩(あゆみリアルティーサービス)

2019.12.26

世の悩める空き家を救うべく日夜活動する「空き家解決人・あゆみ」。
その正体は、元・銀行マンという異色の経歴を持つ不動産コンサルタント、田中歩だ。
このコラムでは空き家解決人・あゆみがその経験と知識を活かし、
空き家にまつわるさまざまな疑問やトラブルを解決へと導いていく。

#04 相続した空き家、売るべき?貸すべき?

今回ご紹介するのは、実際にあゆみリアルティーサービスでコンサルティングした、空き家にまつわる相談事例。どのようなコンサルティングを行ったのか、同じようなお悩みを抱えている人へのアドバイスも交えながら、解説していきます。

<ご相談>
相続した空き家、売るべきですか、貸すべきですか?

ご相談者:杉並区 Oさん 65歳
兄弟で相続した両親の自宅ですが、空き家となって3年が経ちました。急いで売ることもないと思うものの、このまま空き家にしておいても固定資産税などの税金や庭整備などの費用がかかります。賃貸にするのであれば、設備を入れ替えたり直したりしなければなりません。どうしたらよいか悩んでいます。

<今回のご相談のポイント>

相続した人が一人なら、売るのも貸すのも一人で決められますよね。でも相続って、大抵の場合が「複数の相続人が共有」という形で相続することが多いんです。そうすると、「一周忌までは売らずにおいておこう」とか、「思い出があるから売れないよね」といった意見が必ず出ます。相続人が急いで現金化せざるを得ない状況になければ、そうこうしているうちに数年が経ってしまう、というわけです。

相談者も言っているように、「固定資産税」や「庭の手入れ」といったデメリットのほかに、よくある話が、「近隣住民からのクレーム」です。空き家のままにしているとだんだん荒れてきて、ゴミを不法投棄されるようになってしまったり、草木が生い茂って虫が大量発生したり。そのたびに近隣住民からクレームを受けるのは精神的にもつらいと思います。特に相続人の中で、その空き家の近くに住んでいるような方がいる場合は、そういったクレームの窓口に立たざるを得なくなるでしょう。

もうひとつ重要なのは、「空き家を放置していてもお金を産むわけではない」という点。経済合理性からみたら、現状のままでは何の得もありません。高度成長期のように土地が年々値上がりするという時代には、「土地はお金を産む資産」と認識されていましたが、今は必ずしもそうではありません。2013年以降の超金融緩和で不動産の価格は今、天井に近い水準にありますから、そのうち値下がりしてしまうかもしれません。そういった状況なので、手放すならば早いうちに越したことはない、と言えます。

今回のご相談者は、「売る」か「貸す」かで悩んでいるということでしたので、それぞれを選択した場合にどうなるかシミュレーションを行い、判断材料となるレポートを提示しました。

<解決への道筋1>
売却した場合、税金支払い後の手取り額がいくらになるかを試算

まず、対象不動産のあるエリアの相場価格を調べ、売却価格の見込みを試算します。そこから、手取り額を試算しました。不動産を売却するときは、売却価格ばかりに目が行きがちですが、売却に伴う不動産仲介手数料や測量費などのほか、「譲渡所得税」と呼ばれる「所得税」と「住民税」が差し引かれた額が、手取り額となります。譲渡税は税理士などの専門家に確認していただく必要がありますが、簡単に説明すると、売却利益(売却価格から取得費と譲渡費用を引いたもの)に対して、税率20.315%または39.63%を乗じたものが譲渡税となります。

<解決への道筋2>
貸し出した場合、賃料収入がいくらになるかと費用回収期間を試算

次に、市場賃料を分析した上で、どの程度の手取り額が現実的かということをシミュレーションしました。具体的には、建物構造、築年数、駅からの距離、専有面積などの条件が、どのように組み合わさることによって、その地域の賃料水準が形成されているかを調査する、というイメージです。これによって、高い確度の賃料シミュレーションが可能となります。そこから、賃貸運営コストや固定資産税等、所得税および住民税を概算して、最終手取り額を試算します。

オーナーさんとは、この手取り額の何年分くらいまでを改修費用として投資するお気持ちがあるか、何年で投資費用を回収し、その後どの程度賃貸運営をして収入を得たいのかということをお聞きしながら、空き家再生の可能性について一緒に考えていきます。

この時点で賃貸活用へと舵が向き始めた場合は、建物のインスペクションを行い、工務店と現地調査をして、より現実的な改修費用を算出し、賃料収入と回収期間のシミュレーションをブラッシュアップしていきます。

<結果>
「売却」を選択、売却をサポート

最終的にこちらのご相談者は、自分たちの年齢、親が亡くなってから3年以上経過していることから、保有にはこだわらず、売却して現金化し、お互いに楽しもうという結論に至り、売却のサポートをしました。

「3年以上経過していることから」というのは、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すれば、譲渡税が安くなるというルールがあるのです。なので、3年以内であれば売却したほうが有利だと判断しやすい場合も多いのですが、今回のご相談の場合は3年以上が経過してしまったので、「売る」と「貸す」の双方について検討しました。

この空き家は、買主の希望で、解体の上更地でお譲りするという形を採りました。解体費用は自治体の補助を受けることができたので、それを利用しています。解体工事は複数社に見積もりを取り、最も安い会社を選ぶなどの工夫をしました。

通常、建物が利用可能な空き家のご売却を依頼された場合、既存建物付物件としてレインズ(不動産業者専用の売却物件サイト)に掲載して、一気に売却情報を広めるようにしています。その際、他の競合物件に勝つための方法を考えます。例えばインスペクションを事前に実施しておいたり、購入検討者の印象を左右するポイントの修繕提案や費用見積もりを提示するなどしています。

<空き家解決人からのアドバイス>

空き家を「売る」か「貸す」かでお悩みのオーナー様は多いと思います。売却は瞬間的に現金が手に入ります。賃貸は一定のリスクを負う側面はあるものの、中長期的に継続して現金が入ってきます。判断に際しては、オーナー様のご年齢や今後のライフプランはもちろん、ご家族関係、将来の相続のことも考慮しておきたいポイントです。

将来、土地の値段が上昇するということにベットしながら、賃貸のリスクも負いつつ運営収入を得るという選択もありますし、今は一番高い時なので売って現金化し、「別に投資する」と考えることもできるでしょう。

ちなみに、兄弟姉妹で保有しながら賃貸運営する判断をした場合、誰かに相続が発生してしまうと、共有者が増えてしまい、賃貸運営の継続可否や売却可否など結論が出しにくい状況になってしまうこともあります。 要するに、所有する人とその家族の事情と背景を踏まえながら、解を導いていくしかないのです。しかしそこに「売ったらどうなるか」「貸したらどうなるか」という材料があると、検討のしやすさは格段に上がります。「今すぐに結論を出したい」という場合ではなくても、情報や知識はいつかの判断の助けになるはずです。

田中 歩(たなか・あゆみ)

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行(旧三菱信託銀行)に入社し、上場企業や土地持ち富裕層向け不動産売買・活用コンサルティング業務、不動産証券化およびファイナンス業務に従事。2009年、銀行時代に培った企業や土地持ち富裕層向けサービスを一般ユーザー向けに提供すべく「株式会社あゆみリアルティーサービス」を設立。同代表取締役。中古住宅流通の活性化に向け、ホームインスペクション付仲介や老朽化アパート再生事業(木賃デベロップメント)などのプロジェクトを手掛ける。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会理事としてホームインスペクション普及活動も実施。

空き家について相談したい

「実家が空き家になった」「空き家の管理に困っている」「空き家を借りてほしい」など、
空き家の処遇にお悩みの方、お気軽にご相談ください。

この連載のバックナンバー