空き家解決人・あゆみ

田中歩(あゆみリアルティーサービス)

2019.02.21

世の悩める空き家を救うべく日夜活動する「空き家解決人・あゆみ」。
その正体は、元・銀行マンという異色の経歴を持つ不動産コンサルタント、田中歩だ。
このコラムでは空き家解決人・あゆみがその経験と知識を活かし、
空き家にまつわるさまざまな疑問やトラブルを解決へと導いていく。

#03 節税するなら、空き家のままより賃貸活用

前回のコラム#02 相続税を安くできる?「家なき子制度」では、通称「家なき子制度」こと「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」を適用すると、相続税を安くできる場合があることを紹介した。

しかし、この「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」は、《「親の家」を「持ち家を持たない子供」が相続する場合》に適用できる制度。持ち家を持っている子供や、配偶者が所有している家に住んでいる子供は適用されない。「持ち家を持っている子供」が「空き家」を相続する場合に用いることができる節税方法はないだろうか。

それが、あるのだ。
その方法とは、「空き家になっている家を、相続前に賃貸運用しておく」という方法。

なぜこれが相続税の節税になるのかというと、相続税法に、

「貸家が建っている土地(貸家建付地)については、その評価額が『約2割引き』に。貸家については、賃貸割合が100%の場合、その評価額が『3割引き』になる」

というルールがあるためだ。

「貸家が建っている土地(貸家建付地)」の評価額の算出方法は、「自用地とした場合の価額―(自用地とした場合の価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」となっている。(※自用地とした場合の価額=個人が自己居住用として使っていた場合や更地として保有しているような場合の価額のこと。)

「借地権割合」は、地域ごとに国税庁が定め、路線価図にアルファベットにより示されているもので、住宅地の場合、60%~70%であることが多い。「借家権割合」は30%と決められており、「賃貸割合」が100%(その建物のすべてを貸している状態)であれば、上記の算出方法に当てはめると、計算上は約2割程度の割引きになるので『約2割』と表現している。

貸家の家屋そのものについては、適用のための要件はなく、建物すべてを賃貸していれば、一律『3割引き』となる。

「相続後に賃貸運用」するのでは、このルールは適用されない。相続税は「相続発生時の財産」を対象とするからだ。「賃貸運用している貸家」は世の中の経済活動に貢献しているとみなされるが、空き家を相続発生前に賃貸運用しておくと、一体どれほどの節税になるのか。今回も#01、#02と同じサンプルケースをもとに相続税を算出してみよう。ぜひ、比較してほしい。

相続前に空き家を賃貸運用すると相続税はいくらになる?

サンプルケースは以下の通り。お父さんは70代で、自身が名義の持ち家に居住している。親族から相続した家も所有しているが、そちらは空き家のまま。預貯金は1000万円を所有している。40代の長男と30代の長女は、二人とも家を出ているというケースだ。

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前回コラムと同様に、「父の自宅」「空き家」「預貯金」を合わせたお父さんの資産総額は
「1億4000万円」と仮定。「父の自宅」は持ち家のない長男が承継して、通称「家なき子制度」こと「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」(※1)を適用。「空き家」はお父さんの存命中から賃貸運用して、「貸家」の状態で長女が承継するとした場合の、相続税の課税資産総額は以下のようになる。

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すると、課税資産総額は、何も対策しなかった場合の9800万円から、3590万円までダウン!

これを長男と長女が1/2ずつ法定相続したとすると、それぞれの課税資産総額は1795万円となる。相続税は、相続する遺産の課税額の価格帯によって税率と控除額が設定されており、課税額に税率をかけたものから控除額を引いて算出されるため(当コラム#01「相続税の速算表」参照)、「課税価格3000万円以下」で税率は15%、控除額は50万円となる。そうして導かれる長男と長女の相続税の額は、以下の通りだ。

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なんと、長男と長女の支払う相続税の合計は438.5万円に。何も対策しなかった場合の1560万円から、1000万円以上も下がったのである。なお、この場合で「父の自宅」は長男が、「賃貸運用している家」は長女が、現金は折半で相続するとして、課税資産の割合に照らし合わせた長男と長女の相続税額は以下の通りとなる。

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このように、空き家になっている資産がある場合、相続の発生前から賃貸運営しておくことで、相続税を軽減できる可能性があるのだ。

この方法は、「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」が適用できない、「相続人となる子供たちがみんな持ち家を持っている」という場合でも検討できる。一定の賃貸ニーズが見込めるエリアに建つ空き家だった場合、これをうまく活用しない手はないだろう。

なお、説明が複雑になるので詳細は省くが、「貸付事業用宅地等の小規模宅地の特例」(※2を使えば、今回挙げたサンプルのようなケースの場合、空き家を賃貸運用することで、賃貸運用している家の土地評価額をさらに下げることも可能だ。「貸付事業用宅地等の小規模宅地の特例」は面積について要件があるため、活用できるケースが限定的となるものの、一般的な規模の自宅と空き家を保有している程度であれば、活用しない手はない特例だ。

今回はざっくりとした設定のサンプルを挙げて試算したが、実際は細かな条件によって異なるので、自分のケースでの試算を試みたい場合は税理士などの専門家に相談を。適用できる特例も被相続人が所有する財産や想定相続人の状況によって変わってくるので、合わせて確認してほしい。

このように、相続税は「活用していない土地や建物に対して課税をする」という考え方となっている。空き家がある場合、「相続発生のタイミングまで待つ」よりも、まずは「活用できるかできないか」を考えることが肝要なのだ。

(※1)「特定居住用土地等の小規模宅地の特例」の改正点について
平成30年4月以降、「相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと」というルールが付加されているので注意しよう。ルールの詳細は税理士などの専門家に確認することをおすすめするが、簡単に説明すると、相続開始前3年以内に自宅を保有、または配偶者が保有する家に住んでいる人に加え、自宅建物だけを子供に譲渡したり、自分の会社に譲渡してそのまま住むというケースについても適用を認めないということになった。

(※2)「貸付事業用宅地等の小規模宅地の特例」の改正点について
平成30年4月以降、相続開始前3年以内に始めた賃貸事業の場合は適用されないことになった。相続が発生しそうだからといって、慌てて賃貸事業を開始しても小規模宅地の特例は適用させないという意図なのだ。

田中 歩(たなか・あゆみ)

慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行(旧三菱信託銀行)に入社し、上場企業や土地持ち富裕層向け不動産売買・活用コンサルティング業務、不動産証券化およびファイナンス業務に従事。2009年、銀行時代に培った企業や土地持ち富裕層向けサービスを一般ユーザー向けに提供すべく「株式会社あゆみリアルティーサービス」を設立。同代表取締役。中古住宅流通の活性化に向け、ホームインスペクション付仲介や老朽化アパート再生事業(木賃デベロップメント)などのプロジェクトを手掛ける。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会理事としてホームインスペクション普及活動も実施。

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