「空き家を賃貸に出して活用したい」。
そう考える空き家オーナーは少なくありません。しかし、古い空き家を貸し出すとなると、時代のニーズに合わせるためのリフォームが必要になります。家が余っているこの時代、よほどの魅力を付加するリフォームを施さなければ、入居者を得ることは難しいでしょう。
そこで注目されているのが、改装OKの賃貸スタイル。借主にとっては、自分好みの空間に改装して住めるメリットがあり、オーナーにとっては築古の空き家をそのまま有効活用することができます。
今回はそんな「改装OK」賃貸で、DIYによる改装を楽しんでいる住まい手の暮らしをレポート。カスタマイズの内容と、住み心地を伺ってきました。
築40年越えの空き家をDIYでフルリノベーション
横浜市鶴見区にある1973年築のマンションを「改装OK」の条件で借り、DIYで改装しながら暮らしているのは、映像制作会社に勤める34歳の伊藤英生(いとうひでき)さん。
鉄骨造3階建の建物は、ベージュのタイル貼りにブラウンのアルミサッシという、昭和感溢れるデザイン。しかし、住戸内に入ると一変。鉄骨があらわになった天井、柱に吊るされた自転車、一部合板の下地が露出したままの床、素地のままの杉板が貼られた壁などなど、ラフ感溢れる広々ワンルームが広がっていました。
まずやったのは解体作業。部屋を仕切っていた壁や押入れを壊して、次に天井仕上げを解体しました。ベッドスペースだけ、天井も板壁ももとのまま残しています。もともとあった床は全部撤去して、リビングスペースと寝室の床レベルを合わせるために床下の根太組みから下地も自分でやり直して、フローリングを貼りました。
ダイニングキッチンの白いタイル壁やキッチンはもとのままですが、床はPタイル仕上げだったものをスレートタイル貼りに変更。浴室も、もともとあったステンレスの浴槽を撤去して、新たな浴槽を設置。洗面室の壁や床も新たに板を貼ったそう。なんと、これらの作業のほぼすべてを自身で行ったというから驚きです。
床の貼り方など、わからないことがあったらインターネットで調べてやりました。材料はホームセンターやインターネット通販で買ったり、知り合いの工務店さんにお願いして、現場で余った材料を安く譲ってもらったこともあります。
なるべくお金をかけたくなかったし、自分でやってみたいという思いもありました。挑戦してみると、案外なんとかできるものです(笑)
伊藤さんが暮らす住戸の改装条件は、「室内の構造に関わる箇所以外改装可能」「改装工事内容を事前に書面でオーナーに提示し、了承を得られれば現状回復義務なし」というもの。伊藤さんは入居を決めた後、イメージしている改装プランを仲介した不動産会社経由でオーナーに伝え、改装に着手したそうです。
築40年越えのわりに室内の状態は悪くなかったものの、69㎡で3DKという細かく部屋が仕切られた間取りで、和室やカーペット敷きの洋間など、昭和の香り漂う内装だったそう。
さらにこちらのマンションは、最寄りの駅までの距離が徒歩30分! 周辺は車社会でバス便も充実しているとはいうものの、「築年数」「駅からの距離」「間取り」など、都市部での一般的な部屋探しのセオリーに当てはめれば、不利といわざるを得ない物件です。そんな物件を伊藤さんが選んだ一番の理由は、「改装OK」だったから。
仕事柄、自宅でも撮影ができるような広い家に住みたくて、でも僕の予算では広くてカッコイイ家を借りるのは難しい。改装OKな物件なら、間仕切り壁を壊して広い空間を手に入れることができるし、内装も自分の好みにできる!と思ったんです。
勤務先までは車通勤のため、駅からの距離は不問。広さの割に手頃だった賃料と、住戸と同じくらいの広さがある屋上が付いていたことも、入居の決め手になったと言います。
「改装OK賃貸」で手に入れた豊かな賃貸ライフ
もともと「改装OK」物件に絞って物件を探していたという伊藤さん。実は以前借りていた家も、DIYによる改装をしながら暮らしていたそう。
2戸が連なったテラスハウスで、最初はそのうちの1戸に暮らしていたんですが、しばらくして隣も空いたから使っていいよとオーナーに言われ、2戸合わせて100㎡ほどを使って暮らしていました。
建物はとにかくボロボロ。おかげで賃料は格安でしたが、改装OKというか改装しないととても住めない(笑)壁を壊して部屋をつなげたり、傾いていた床を作り直したり、片方の家の浴室を壊してガレージにしたり、トレーニングルームまでつくりました。
お向かいに住んでいたオーナーは「すごいねー!」と言いながら僕が改装してく様を楽しんでくれていました。古い家だったので、「崩れても訴えないでね」とも言われていましたね(笑)。
その家がついに解体されることになり、現在の住まいへと住み替えるに至った伊藤さん。「改装NG」の賃貸に住むという選択肢は、もはや一切なかったと言います。
上京してすぐの頃に住んでいた賃貸は改装NGの普通の物件でした。最初は家具を自作するぐらいだったんですが、やっているうちに家そのものにも手を入れたくなってきて。
賃貸でも、こうしてカスタマイズして自分らしい空間に暮らせるほうが、豊かですよね。「ここ使いにくいな」「ここ好きじゃないな」というところを直していけるから、ストレスフリーな生活ができるし、自分だけの特別な空間に住んでいるという優越感にも浸れます(笑)
自分で改装するのは大変だし忍耐力も必要ですが、楽しさのほうが大きい。身体を動かすのでストレス発散にもなりますしね(笑)家の造りを知れることにも面白みを感じます。
古い家を自らの手でバリューアップする喜び
自分で手を入れることによって家に愛着がわくことも「改装OK賃貸」の魅力だと話す伊藤さん。とはいえ賃貸、いくら手をかけても自分のものにはなりません。伊藤さんはその点でも、改装OK賃貸のエキスパートらしい理念を持って改装に臨んでいました。
改装にかける費用の上限を決めるんです。僕の場合この家では、相場賃料と比べて安くなった分の年間額を、年間の改装費用の限度に設定しています。
入居してから現在までの1年で、改装に費やした費用は20万円ほどだと言います。伊藤さんの住まいは、低コストのDIYでも工夫とセンスでここまでの空間がつくれるという好例でしょう。
イメージしている完成形に対して、今の完成度は5割くらい。僕がこの部屋を出て、オーナーが次の入居者を募集するときには、賃料を今の内容に上乗せして募集できるくらいのクオリティにしておきたいですね。
ちなみに、この家に入居後、ご結婚した伊藤さん。奥様との同居が始まり、来春にはお子さんも誕生するそう。年齢的にも一般的には「住宅購入適齢期」ですが、今後の住まいのビジョンを伺ってみると。
家を購入する気が一切ないわけではありませんが、万が一自然災害などでその家や土地に住めなくなることを考えると、何千万も掛けてそのリスクを選択する必然はないんじゃないか?という思いもあります。安かったら買うんですけど(笑)
あと、新築にはあまり惹かれません。完成されすぎていて手を加えづらい新築よりも、古い家のほうが、DIY好きとしては好みですね。家をより良くするための行為としてポジティブに改装に臨むことができますから。
築古空き家をバリューアップできるだけでなく、借主の住まいや暮らしに対する意識や経験値を高める、「改装OK」という賃貸スタイル。こうした空き家活用の形が広がり、伊藤さんのような住まい手が増えると、空き家は“魅力的な暮らしのための素材”として着目されるようになっていくかもしれません。
取材協力:DIYP
interview_佐藤可奈子/photograph_中村晃
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