リノベのプロが借りるから心強い 
カリアゲで未来ある空き家活用

東京都大田区
『マゴメロッジ』オーナー・野村圭太朗さん
カリアゲパートナー・田中マサシさん(Drawer)

2017.05.17
『マゴメロッジ』の以前の姿。昭和3年に建てられた後、増改築を繰り返しながら住み続けてきた家でした。

『マゴメロッジ』の以前の姿。昭和3年に建てられた後、増改築を繰り返しながら住み続けてきた家でした。

大田区にある築80年超の木造住宅を改装した『マゴメロッジ』。こちらはカリアゲJAPANが提供するサービス『カリアゲ』を利用して、シェアハウスとして運用されている事例です。『カリアゲ』の特徴は、ただ建物を改修するだけではなく、カリアゲパートナーがオーナーから預かった大切な住まいをベストな状態に保ち、将来を見据えて運用すること。オーナーは『カリアゲ』にどんな魅力を感じたのか、カリアゲパートナーはどんな思いのもとオーナーから空き家を借り上げたのか、『マゴメロッジ』を取材しました。

「いつかは建て替え」それまで空き家をどうしよう?

大田区を横切る幹線道路から一本入った、のどかな住宅街。馬込はかつて、文士や芸術家たちも住んだエリアです。坂の上に建つ木造2階建ての古い一軒家には今、4人の若者が暮らしています。下宿だった2階はそれぞれの個室になり、それ以外のキッチンやお風呂はすべて共用。築80年超の古さを活かしたシェアハウスを住人はみな気に入っていて、ときには家を出たOGも遊びにやってきます。

元々あった板塀をパープルに塗装して、「マゴメロッジ」の看板を設置。大げさな工事はしていないのに、建物外観の印象が一新。

元々あった板塀をパープルに塗装して、「マゴメロッジ」の看板を設置。大げさな工事はしていないのに、建物外観の印象が一新。

『マゴメロッジ』の建物オーナーである野村圭太朗さんは、馬込周辺に代々、複数の物件を所有する地主さんですが、ここを所有することになったのはつい最近のこと。

こちらはもともと借地だったのですが、3年前に、お住まいになっていた方からご事情があって引っ越すので、借地権を買い戻してほしいというお話がありました。
ちょうど、この家の隣にある小さなマンションがうちの物件で、以前からそのマンションに建て替えの話が出ていました。この家の土地も所有しておけば、将来的な建て替え時に建物規模を大きくして運用できるだろうと考えたんです。(野村さん)

とはいえ、マンションは入居中で、建て替えがいつのことになるのか分かりません。目の前の古い家をどうするか、野村さんは選択を迫られました。

更地にしてしまうと、家が建っている場合よりも税制的に不利になります。また、解体して新築するとしても、法律上の理由で現状よりも小さな面積にしか建てられません。マンションを建て替えるタイミングが読めないこともあり、壊すに壊せず、建てるに建てられない状況でした。(野村さん)

地域に多くの物件を持つ地主として「地域全体の住環境も考えていきたい」と話す野村圭太朗さん。

地域に多くの物件を持つ地主として「地域全体の住環境も考えていきたい」と話す野村圭太朗さん。

壊さずに空き家のままにしておくと、それはそれで不法侵入や放火などの心配があります。そうした防災・防犯上のリスクを防ぐには定期的に見回らなくてはなりませんし、家も土地も持っているだけで税金が出ていきます。理想としては、建て替えまでの間、誰かに住んでもらいたいところです。

建てられてからかなりの年数が経っていますし、自分の会社が建て主になって建てた家ではないので、正直なところ、いつまで保つか分かりません。貸すにしても、フル改装しなければ貸せないと考えていました。
とはいえ、将来の建て替えのタイミングを考えると、それだけの投資をして採算が採れるのかどうかも分からなかったのです。(野村さん)

そんなとき、野村さんの頭に浮かんだのが、Drawerの田中マサシさんでした。

古い建物の魅力を引き出すパートナーとの出会い

田中マサシさんが代表を務めるDrawerは、店舗や住宅の内装をデザインから施工まで行う内装会社。古い建物のリノベーションも多く手掛けており、カリアゲJAPANが提供するサービス『カリアゲ』で、空き家を借り上げて改装・運用する事業者、『カリアゲパートナー』の一員でもあります。野村さんと田中さんの出会いは、野村さんが所有している賃貸マンションの改修がきっかけでした。

大手不動産ポータルサイトと、『toolbox』という空間づくりのためのウェブショップによる「賃貸カスタマイズ&DIY」という企画で、「実際にカスタマイズできる部屋を貸してほしい」というお話をいただき、部屋を使ってもらったんです。

ちょうど僕も、これから家がどんどん余っていく時代に向けて、今までとは違った取り組みが必要だと考えていたので、興味を持ったんです。

すべてDIYでできる内容の改装だったのですが、以前の部屋とはまったく違った印象になりました。原状回復のリフォームしか知らなかったので、DIYでもここまでできるのかと驚きました。その企画のDIY指導者が、田中さんだったんです。(野村さん)

自分にはない発想と豊富な知識に期待し、古い木造住宅でも何かできることがないだろうかと考えた野村さんは、田中さんに例の空き家を見てもらうことにしました。

現地を訪れた田中さんは建物をひと目見て、ポテンシャルを感じたといいます。

1階の和室から縁側への抜け感や、2階の角の部屋から外を眺めたときの感じがとても良くて。何と素晴らしい素材が転がっているのだろうと思いました。(田中さん)

改装前の1階リビング。周囲が建て込んでいないため、障子を開け放つと実際の広さよりもゆったりとして感じられます。

改装前の1階リビング。周囲が建て込んでいないため、障子を開け放つと実際の広さよりもゆったりとして感じられます。

改装前の2階の居室。押し入れや竿縁天井、レトロな模様の床はシェアハウスになった今も変わりません。

改装前の2階の居室。押し入れや竿縁天井、レトロな模様の床はシェアハウスになった今も変わりません。

壊すのは本当に簡単です。いつでも、できるんです。でも、一度壊してしまったら、二度と元には戻りません。今あるこの家の魅力を引き出して、いかに魅力的に見せるか、面白く使うかを考えてみたいと思いました。(田中さん)

そこで野村さんは、『カリアゲ』を利用して、田中さんにこの家を委ねることにしました。

カリアゲJAPANが提供する『カリアゲ』は、登録している『カリアゲパートナー』が築30年以上の空き家を期間を設けて借り上げるサービスです。カリアゲパートナーは、田中さん率いるDrawerのような内装会社や設計事務所など、建築の知識やリノベーションの実績があるプロフェッショナルたち。カリアゲパートナーは自己負担でその空き家を改修し、自己使用したり、賃貸するなどして運用。オーナーは空き家をそのままの状態でカリアゲパートナーに貸し出し、活用することができます。

オーナーの立場から言えば、初期投資がない形で、古い家に対する理解と建築的問題を解決する技術も持っている方に運用していただけるのは非常にありがたいですね。(野村さん)

そうして、オーナーの野村さんはDrawerと賃貸借契約を結びました。

この家をこよなく愛するDrawerの田中マサシさんはかつて、ご自身がここに住まうことも考えたほど。

この家をこよなく愛するDrawerの田中マサシさんはかつて、ご自身がここに住まうことも考えたほど。

入居者が入居者を呼ぶシェアハウス

田中さんは、この家の開放感や和室続きの特徴的な間取りを活かした新たな住まい方として、シェアハウスに再生することにしました。

古い家には隙間風を始め、昨今の賃貸住宅では敬遠されるような不便さもあります。けれども、古い日本家屋にはそれを補ってあまりある良さがある。水回りなど生活に必要な部分をしっかり改修すれば、惹かれてくる人は必ずいると思いました。(田中さん)

野村さんもこの家がどう活かされるのだろうかという期待から、その案を快諾。シェアハウスとしての改装と運用が決まりました。

住人が集う1階のリビング。障子や床の間がある和室は、ほぼ元のままで使っています。

住人が集う1階のリビング。障子や床の間がある和室は、ほぼ元のままで使っています。

建て付けの悪くなったサッシや設備も古びた流し台など、手を付けるところはたくさんありましたが、直前まで人が住んでいたこともあり、状態としては悪くありません。キッチン、お風呂、ランドリーといった日々の生活に欠かせない水回りだけはきっちりと改装し、そのほかは古い家の良さを活かしました。

左・浴室につながる4畳半の部屋は洗面室。忙しい朝も混雑しない広さです。/右・キッチンの収納はつくりつけで、メンバーの入れ替わりにも対応しやすいシンプルなものにしました。

左・浴室につながる4畳半の部屋は洗面室。忙しい朝も混雑しない広さです。/右・キッチンの収納はつくりつけで、メンバーの入れ替わりにも対応しやすいシンプルなものにしました。

そうして誕生したシェアハウス『マゴメロッジ』は入居者募集を行う前に、入居者が決まってしまったといいます。

改装している段階で「今シェアハウスをつくっています」と担当スタッフが何気なくFacebookでつぶやいたところ、住んでみたいという人が次々に集まってきたのです。当初はシェア物件のサイトで入居者を募集しようと思っていましたが、その前に入居者が決まってしまいました。その後ひとり引っ越しましたが、またすぐに次の方の入居が決まりました。居心地がいいみたいですね。(田中さん)

入居者同士のつながりのなかから次の入居者が決まっていき、シェアハウスとしての稼働から2年経った今も入居希望者が途切れることはありません。

生活動線の中心になる1階のダイニング。人が集まりやすく、シェア生活の要になっています。

生活動線の中心になる1階のダイニング。人が集まりやすく、シェア生活の要になっています。

手入れをしながら活用するから、より良い家に

『カリアゲ』での活用を始めて今年で3年目。野村さんは今後も引き続きDrawerに『カリアゲ』してもらうつもりだと話します。

今回Drawerに『カリアゲ』してもらったことで、必要最小限のリノベーションでもこんなふうに変えられることやシェアハウスといった新しい住まい方など、さまざまな気づきがありました。これから先も活用しがいのある個性的な建物に再生してもらうことができ、本当に良かったと思っています。(野村さん)

古い家の宿命で、運用から3年の間には壁にカビが出たり、水道管が壊れて漏水したりと、少なからずトラブルはありました。けれども、カリアゲパートナーはそうした住まいのトラブルが起こったときに、オーナーを頼るのではなく、自分たちで手直しします。古い家だからこそのそうしたトラブルは想定内。普通なら避けたくなるところですが、カリアゲパートナーはそうは考えないようです。

古いですから、あちこち壊れますよ。でも、直せばいい。僕らは工務店ですから、家を改装して運用するだけでなく、不具合があったときはすぐ対応できます。この家を見たときに、必要なところを補強して、直しながら使えば、今後も充分に使えると思いました。現に、地震で倒れることもなく現在まで立派に建っています。古い家だからといって不具合を恐れて、活用しない方がリスクだと思いますよ。(田中さん)

キッチンは住まい選びで重視する人が多いポイント。シェアハウス『マゴメロッジ』でも、ここはきっちり改修しました。

キッチンは住まい選びで重視する人が多いポイント。シェアハウス『マゴメロッジ』でも、ここはきっちり改修しました。

今、『マゴメロッジ』に住んでいる人たちは、この家での暮らしを楽しんでいて、まだまだ住み続けたいと希望しています。田中さんは近々また改修をして、建物をアップデートするそうです。賃借形態としてはいわゆるサブリースですが、二次改修に掛かる費用もパートナーが負担しています。

なかには想定家賃の取り決めを利用して、オーナーから利益を吸い上げようとするサブリース業者もいます。利益をとるだけとって、その後の部屋の使いかたについては何ら関与しないという業者には注意しなくてはならないと思います。

今回、シェアハウスへの改装費用は田中さんの会社・Drawerが負担し、ここ数年だけのことではなく、先々の使い途までを視野に入れた改装をしてもらいました。リスクも一緒に背負いながら、同じ方向を向いて考えてくださる非常に貴重な存在です。(野村さん)

最近では、野村さんが所有するほかの物件が新たに空き家になり、そちらも『カリアゲ』での活用を考えているのだそう。

お住まいになる方も「安いから、とりあえず」で決めるのではなく、『マゴメロッジ』のように「ここに住みたい」という気持ちで賃貸物件を選べるような世の中になったら、と思います。そういう方が入居したら、きっと長く住んでいただけるでしょう。長くお住まいいただけるなら、オーナーによる物件の維持、向上のための投資も積極的になるでしょう。

管理会社にお任せではなく、我々建物オーナーもきちんと勉強していかなくてはと思っています。パートナーを見極め、「ここに住みたい」と思ってもらえる住まいをつくっていくことが、これからの時代では大切だと思いますね。(野村さん)

田中さんとの出会いを通じて、古い家の活用についての見地が広がったと話す野村さん。若い大家さんのこれからに期待が高まります。

田中さんとの出会いを通じて、古い家の活用についての見地が広がったと話す野村さん。若い大家さんのこれからに期待が高まります。

interview_本多小百合/photograph_カリアゲJAPAN

マゴメロッジ
東京都大田区南馬込
都営浅草線『西馬込駅』徒歩8分
木造2階建て、全4室
運営者:Drawer(カリアゲパートナー)

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