親と子どものためのリラクゼーションスペース『SAKURAKI no ie』があるのは、熊本市中央区帯山。熊本市中心部の繁華街へアクセスしやすく、住環境の良さにも定評のある人気のエリアです。以前は別の場所で営業をしていた『SAKURAKI no ie』は、2016年4月に起きた熊本地震で建物が被災し、オープンからわずか半年で営業停止に。震災から一年を経た2017年の春、新たな場所で『SAKURAKI no ie』が再出発するまでのお話を、代表の葛西江美さんに伺いました。
オープン半年で被災し、やむなく営業停止に
『SAKURAKI no ie』は、“子どもたちを自由に遊ばせながらママたちがリラックスできる場所をつくりたい”という葛西さんの想いから生まれたリラクゼーションスペース。キッズルーム、カフェ、アトリエ、オフィス、フォトスタジオ、リラクゼーションルームが一体になっており、子どものそばにいながらパパママが仕事や趣味を楽しんだり、一緒に何かに取り組むことができる場所です。
葛西さんは『SAKURAKI no ie』の企画運営のほか、自身がかつて歌手を目指してロサンゼルスに8年間滞在していた時の経験から、“記念日をもっと盛大に祝って楽しむ文化を提案したい”と、子どもたちの記念日を祝うイベントやバースデープロデュース業、動画制作事業も手掛けています。
『SAKURAKI no ie』は2015年10月、熊本市西区島崎にある古い一軒家でスタートしました。オープンから半年が経ってようやくここからという時に、熊本地震が発生したんです。建物は被災して、半壊認定を受けました。直せば使える可能性もありましたが、建物は石垣の上に建っていたんです。地震によって緩んだ石垣の危険を考慮すると、営業停止にせざるを得ませんでした。
この時の建物は、最低限のリノベーションをした下地の状態で借りて、自分たちでDIYしてつくり上げた思い入れのある空間だっただけに、かなり落ち込みました。被災した直後は「人生終わった」と思ったほどでした(笑)。
やむなく店舗の営業をストップしていた間、葛西さんはそれまで店で使っていたおもちゃや遊具を持ち出し、各地の避難所を訪れては子どもたちとその親のために即席のキッズスペースを提供するボランティア活動をしていたそうです。
屋号に掲げている『サクラキ』とは、熊本地震の震源地である益城と目と鼻の先の距離にある、私の生まれ育った場所のことなんです。益城に住む祖母の家や幼馴染みの家も全壊。大切な友人たちも大きな被害を受けました。私自身も当時2歳の子どもを抱えてこれからどうしようという状況でもあったのですが、被害にあった人たちのために何かせずにはいられなくて、今自分ができる精一杯のことをしようと思い、ボランティア活動を続けました。
理想的な空き家との出会いが、再出発の大きな励みに
震災から約半年が経った頃。ボランティア活動に力を貸してくれた仲間たちとともに、新たに物件を借りて店舗の再開を目指そうと動き始めたのが2016年の10月のこと。
物件探しを始めて、葛西さんがまず頼りにしたのは以前の店舗探しでもお世話になった『ウエダ不動産事ム所』でした。そこで「きっと『SAKURAKI no ie』に合うと思うよ」と、紹介されたのが現在の店舗となる空き家。数奇屋門と塀瓦付きの塀に囲まれた、700㎡超えの敷地に延床150㎡という平屋建てという物件でした。
最初にこの家を見た時の印象は「豪邸」(笑)。広い庭は、車で来店するママやパパたちが余裕を持って車を停められる駐車場にするのにピッタリ。平屋の造りも、子どもたちに目を配りながら食事ができるキッズスペースとカフェをつくるのに最適の形でした。
目の前は小学校で周辺環境は抜群。昔ながらの街並みに建つ古い家の雰囲気も気に入りました。しかも改装OKだなんて! 震災でただでさえ物件が少なかった時期にこんな理想的な物件と出会えたんだから、うまくいくに違いない!と再スタートの大きな励みになりましたね。仲間も他のいろいろな物件を当たってくれていましたが、これ以上の物件はなかったです。
以前の店舗の内装工事をセルフビルドで行っていた葛西さん。建物の安全性を保つため、構造的な部分の改修と下地づくりまでは、熊本のリノベーション会社・ASTERに依頼。そこから先の改装は、外壁の塗装から内装の壁塗り、床貼りに家具製作まで、ほぼ自分たちで行いました。「店を訪れる親子に少しでもリラックスしてもらえる空間を」と自らの子育て経験を振り返りながら、以前の店舗よりもさらに居心地の良い場所を目指してつくり上げたそうです。
例えば、赤ちゃんの月齢に応じて食事のスタイルは変わります。座卓だと小さいお子さんがテーブルの上のものに手を出さないかと親はヒヤヒヤしてしまうはず。だから、あえてうちはテーブル席をメインにしています。このテーブルも天板のサイズを自分たちで考えて、鉄工所に脚を作ってもらってDIYしたんですよ。また、寝んねの時期の赤ちゃん連れにも使いやすいように、小上がりの座卓の席も用意しています。奥には個室兼フォトスタジオもつくりました。
プロジェクターもあるので、ワークショップやビジネスのシーンでも活用していただくことができます。セルフリノベーションで工事をコストダウンしたおかげで、こうした設備にも投資することができました。
大家さんはお客さまに。この場所が結んでくれた縁に感謝して
客席と廊下を挟んで授乳やおむつ替えのできるナーシングルーム、リラクゼーションルーム、漫画やアート本のコーナー、ベビーベッドまで完備。さらに生産者の顔の見える熊本県産の野菜をふんだんに使った料理は、親子連れでなくても十分楽しめるラインナップ。赤ちゃんの時期に合わせた離乳食まで提供しているというからまさに至れり尽くせり。
新店舗のオープンから数ヶ月が経った『Sakuraki no ie』は連日たくさんの親子で賑わい、子どもたちの楽しげな声に溢れています。この家の大家さんも、『Sakuraki no ie』として生まれ変わったこの場所に、今はお客さまとして通ってくださっていると言います。
ちょうど今日も大家さんが息子さんご夫婦とお昼のランチを食べに来てくださいました。当初は、この家を取り壊すことも考えていたとか。今はこうして私たちが使わせていただいて、大家さんはお客さまとして足を運んでくださる。この家が結んでくれたご縁に感謝する日々です。
以前の店舗で借りていた建物も、地震による被害を受けた部分の改修が終わり、新しい入居者が決まったそうです。前の物件やこの家のように、直せばまだまだ使える建物はたくさんある。そういったことも、この場所を通じて伝えていけたらいいなと思っています。
苦難にあってもへこたれない葛西さんの行動力に惹きつけられるように集まった多くの仲間たちとともに、再び走り始めた『SAKURAKI no ie』。「ママやパパがゆっくり自分の時間を過ごしたい日に気軽に足を運んでもらったり、記念日を盛大に祝って日常を彩ったり。親子それぞれが満足できるように、この場所の可能性をもっともっと追求していきたい」と話す葛西さん。葛西さんの溢れ出すアイデアが散りばめられたこの店は、たくさんの人と交わりながら、さらに豊かで創造的な場所へと成長していくに違いない。
熊本の空き家再生
カリアゲ熊本
『SAKURAKI no ie』
熊本市中央区帯山4-13-18
TEL:096-237-7845
営業時間:月・金9時〜22時、火・水9時~18時、土・日11時~22時
定休日:木
駐車可能台数:20台
interview & photograph_ウエダ不動産事ム所(カリアゲ熊本)
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