#04 「実家が空き家に」を防ぐ方法
こんにちは、大久保です。
前回コラムでは「空き家のまま放置」するといろいろ大変なことが起こる可能性がありますよ、というお話をしましたが、今回はいよいよ、「どうすれば空き家オーナーにならずに済むのか」について、解決のための方法をお話していきます!
当連載第2回「実家が持ち家=空き家オーナー予備軍!?」でお話した通り、ご実家が持ち家の方は空き家オーナーになってしまう可能性があります。その大きなきっかけになるのは「相続」です。
空き家オーナーにならないための対策法とはすなわち、「相続」がスムーズにいくようにあらかじめ手を打っておくことです。
ここでは、典型的なパターンとして、以下のようなプロフィールの一家を想定してお話していきます。
・「自分」は実家を出ており、将来実家に戻る予定はない。
・兄も実家を出て、別に家を所有している。
・父と母は実家に暮らしている。
・実家の土地建物の名義人は父。
「自分」は将来実家に戻る予定がなく、兄も別に家を持っているとなると、実家に住む父母がいなくなった場合、実家を使う人はいなくなります。つまり、空き家になってしまいます。そして、その空き家を「自分」と兄、どちらが相続するのか、二人で相続するのかによって、空き家の処遇は変わってきます。空き家オーナーになって困らないために、事前に何ができるのか?主な対策は、以下の5つです!
その2:家族の間で、父(被相続人)の逝去後に実家をどうするか話し合っておく
その3:相続でもめないように、父(被相続人)に遺言書を作っておいてもらう
その4:実家を売却又は賃貸する予定の場合、事前に不動産業者と話しておく
その5:相続時にお願いする弁護士・司法書士・税理士に相談しておく
では、順番に解説していきましょう。
その1:父(被相続人)と、逝去後の話ができる関係になっておく
いきなりですが、これが一番のポイントです。現在の持ち主であるお父さん亡き後の実家の使い道を考えておくこと、そしてそれを話し合っておくべき相手は、お母さんでもお兄さんでもなく、現在の持ち主であるお父さんなのです。
相続に関するトラブルのご相談で多いのは、お父さんの生前に、お父さんが亡くなってからの話をするのはためらわれ、何も相談できないままお父さんが逝去。何も決められず今に至っている、というようなケースです。
確かに、お父さんが元気でピンピンしているときに、お父さんが亡くなった後の話をするのは、子どもとしては心苦しく不吉な感じがするでしょう。また、お父さんのほうも、そんなことは考えたくない!という方が多いようです。そういった感情的なことが、相続についての事前の話し合いを阻害する要因になってしまうようです。
しかしこれは、「大事な人の死」という辛い話ではなく、「残された家族が幸せに生きていく」ことを考えるための話し合いです。まずはお父さんと逝去後のお話がしっかりできる関係になっておくことが、スムーズな相続のための第一歩です。
とはいえ問題は、「どうやったらそういう話ができる関係になれるのか?」という点です。たとえ仲の良いご家族でも、こういう話はなかなかしにくいものでしょう。多くの相続問題に携わってきた私の経験からアドバイスをするとしたら、まずは「きっかけを掴む」ということが挙げられます。
例えば「友人の親が亡くなった」「親戚が相続をすることになった」など、周辺の出来事をきっかけに話してみる方法です。また、お父さんが病気になったり入院したことをきっかけに、お父さん自身が心配になって今後のことを話し出してくる場合もあるので、そうしたタイミングを逃さず捉えることがポイントです。ただ、そうしたタイミングで唐突に相続についての話をしだすと、怒りを買ったり話をこじらせてしまう可能性もあるので、相手の心情や状況をよく考えて対話に臨みましょう。
もうひとつは、相続について「なんとなく」話を振るのではなく、「相続人側の具体的な問題点や課題を挙げる」ということです。「お父さん亡き後の実家の扱いをどう考えているのか?」とお父さんの考えを聞くのではなく、「兄弟の仲が悪いから遺産分割協議で揉めるかもしれない」「自分は実家に戻れないから、空き家になって税金だけ払うことになってしまう」というふうに、「自分(相続人)がこう困る」という相談のスタンスでお話をすることです。
「お父さん(被相続人)が元気なうち」に、「きっかけ」を掴み、「相続人側の具体的な問題点や課題を挙げる」。そのためには相続について多少の勉強が必要になりますが、当コラムなどを参考に、自分の場合の問題点や課題をイメージしてもらえたらと思います。
その2:家族の間で、父(被相続人)の逝去後に実家をどうするか話し合っておく
お父さん(被相続人)と逝去後の話ができる関係になっておくことが大前提ですが、逝去後の実家を誰が引き継ぐのか、そしてどう使っていくのかについても、家族間であらかじめ話し合っておくことが大切です。
例えば遺言書がなく、相続についてお父さん(被相続人)の意向が示されないままお父さんが亡くなってしまった場合、実家の土地建物はお金のように簡単には分配できないため、相続人で共有することになります。しかも、そうなった後、実家の土地建物の扱いについて相続人の間で意見が合わないような場合、売るも貸すもできず、空き家になってしまう…という可能性がとても高くなります。
ですので、実家をどうするのかについて、家族のあいだでもしっかり話し合っておきましょう。どうするのが最適なのかがわからない・判断できない場合は、不動産について精通した弁護士に相談するのもひとつの方法です。
その3:相続で揉めないように、父(被相続人)に遺言書を作っておいてもらう
お父さん(被相続人)の生前に家族で話し合いできていたとしても、相続人のあいだで意見がまとまらなければ、お父さん亡き後の実家は空き家になってしまう可能性があります。そこで提案したい対策方法が、「お父さん(被相続人)に遺言書を作っておいてもらう」です。
遺産の扱いについて指示された遺言書があれば、相続人間で意見が合わなかったとしても、遺言書の通りに遺産の分割や処理が行われることとなります。
ただ、遺言書も、お父さん自身の意思がなければ用意できるものではありません。そして、遺産の内容やそれらにかかる相続税などについて、お父さんが十分に把握できているとも限りません。また、遺言書はお父さん(被相続人)が自分の考えだけで作っていいものですが、被相続人となるお母さんや子どもたちが納得する分け方であることに越したことはありません。
ですから、「その1」「その2」で話した通り、お父さん(被相続人)の逝去後についてお父さん本人と、そして家族間で話し合える環境をつくり、きちんと準備しておくことが重要なのです。
その4:実家を売却又は賃貸する予定の場合、事前に不動産業者と話しておく
ここまでの準備ができたら、あとは各論の準備です。「実家を売却してお金に換え、相続人で分配する」、「実家を賃貸に出して運用する」など、お父さん亡き後の実家の扱いが決まったら、あらかじめ不動産業者に相談しておくと良いでしょう。
実家の状況によっては、想定している扱いができないこともあります。不動産や建築の知識、賃貸や売却のルートに精通した専門家に相談することで、よりよい方法が提示される可能性もあります。とはいえ、お父さん(被相続人)とご家族(相続人)の意見がまとまっているに越したことはありませんから、家族間で状況や考えを共有した上で、相談に臨みましょう。
その5:相続時にお願いする弁護士・司法書士・税理士に相談しておく
不動産業者への相談と同時に、相続に絡む諸手続きに対応してくれる専門家へも相談しておくと良いでしょう。
相続の際は、「相続税の申告手続き」、「実家の登記名義人変更」、遺言書がない場合には「遺産分割協議」、遺言書がある場合は「遺言執行者の定めがあるかどうか」などなど、専門的な知識を要する手続きが次々と発生します。これらを「全部自分でできる!」という人は、そうそういないと思います。さらにこれらの手続きには期限もあり、故人への想いに浸る間もなく手続きに追われることに…。
こうした複雑な手続きを円滑に行うために、「遺言書の作成、遺産分割については弁護士」、「登記名義人変更は司法書士」、「税関連の申告は税理士」というふうに、それぞれの専門家へあらかじめ相談し、いざという時にどう動けば良いのかを把握しておくと非常に安心です。それぞれの専門家を探すのが難しい場合は、弁護士経由で紹介を得られる場合もあります。
以上、5つの対策ポイントをご説明しましたが、それぞれのポイントは密接に関係し合っています。実家の取り扱いについては不動産業者と相談しますが、その取り扱い方が遺産分割や税金のことに絡んでくる場合もあります。ですので、全体を頭に入れた上で、対策に取り掛かることが大切です。
次回は、実際にあった事例をサンプルに、空き家を生みやすい相続トラブルのケースをご紹介していきます。自分のシチュエーションに似たケースがあったら、要注意!起きたトラブルへの対処法、トラブルにしないための対策法も合わせてご紹介できたらと思っています。それでは、また次回。
大久保朝猛(おおくぼ・ともたけ)
青森県出身。東京大学法学部卒業。平成19年9月弁護士登録。現在は、東京・池袋のサンシャイン60に所在する「へいわ総合法律事務所」の代表弁護士を務める(東京弁護士会所属)。不動産と交通事故の事案をはじめ、一部の特殊な企業法務を除き、ほぼすべての分野の事件の弁護を手掛ける。平成21年に実父が逝去したことを機に、空き家問題に我が事として真剣に向き合うことに。以後、不動産、債権回収、遺産、相続など、弁護士ならではの切り口から空き家問題に取り組み、他の関連士業と連携しながら総合的な解決を目指している。
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